業務フロー構築構築編

第8話 ベンチャー異世界、初日からカオス。

ベンチャー企業という部類の会社で働くことができる人間というのは、良くも悪くも頭のネジが2、3本吹っ飛んでいるヤツが多い。


社内統制などとれておらず、思いつきで動き、突然企画はポシャり、業務フローなど存在せず、評価の基準さえ曖昧だから昇給なんて微々たるもの。


事業が当たれば突然ボーナスが振り込まれることはあれど、そんな事は稀だ。大体は入社時のしょっぱい条件のまま働き続けることになる。


それがベンチャー企業の実態であり、どれほど優秀な経営陣で固めようと、輝かしいキャリアを持つ中途を入社させようと、億単位の資本金を獲得しようと、大なり小なりそういうものなのだ。


だから、ベンチャーとかスタートアップとか、ましてや創世記を名乗る企業に夢をみてはいけない。


いつなんどき沈没するともしれぬ船に乗り込む覚悟が無いのならば。



「荷物そこ、ゴミ箱はあっち。あと、あんたの担当は……、チッ、もしもし、エオーラ管理室です!」


えらく背の高い女性は、エオーラ管理室統括のミラーと名乗った。

形ばかりのオリエン中、管理室にけたたましく鳴り響く電話に何度も中断され、管理室業務の説明は遅々として進まない。


「で、なんだっけ、ああ、そうそう、ここの山脈あたりの文明の発展進捗をトラックしてちょうだい。まだ、海側の文明とは接触させないで。」


方法は任せる、と付け加え、具体的な管理方法についての説明は一切ない。


—既視感がすごい…。


「あんた、名前は?って、あんた、転生予定者だっけ…、固有名詞引っ剥がされちゃってるわね。適当に名乗りなさい。できれば、他と被らないようにね。これ名簿、自分の管理者番号のところに入力しといて。

じゃあ、私はこれで!!チッ、はいもしもしエオーラ管理室!」


まるで嵐のような管理者オリエンは唐突に終了した。


手渡された名簿に目を落とすと、そこにはいくつかの名前と役割のようなものが記載されている。

前世では見たことのない字体だったが、与えられた力のおかげかサラサラと頭に入ってくる。



ガジュレオ、世界統括責任者


—あの面接してくれた人、ガジュレオさんていうのか…。


天使と一緒に回った怒涛の面接地獄を思い返すと、天使を含め、そういえば誰も名乗っていなかった。


それが、おそらく管理する者たちのルールなのだろう。

理由については不明だが、これは近々ミラーさんに聞いてみるとしよう。


続けて、名簿を確認する。


カリオ、地底および北側海底管理。

メフラータ、南方海域および南大陸文明管理。

ショージ、東側大陸中央部管理。

ミラー、文明発展制御および管理室統括。

クジグメイラ、西方大陸、北方海域および北方接岸大陸管理。


随分ざっくりしているし、ガジュレオさんやミラーさん以外の名前も載っていたが、グレーアウトされている。


—グレーアウトになっている管理者は、退職済みってことか…。


そして最後の行、名前が空欄になっており役割だけが記載されている。おそらくこれが僕の担当すべき業務。


【名称未定】北方大陸引き継ぎ予定、および新規魂採用。


「ねえ!名前!」


電話を終えたミラーさんがこちらを見ずに呼びかける。その声からこの職場がいかにカオスであるかが窺い知れた。


「え、あ、新倉です!!」


咄嗟に口から飛び出したのは前世での苗字だった。しかし—


「あんたそれ、前世と一緒の名前?縁起悪いからやめてちょうだい!」


—いや知らんし、そんなルール知らんし!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ベンチャー 生存率0.3%の道 ろくろ @oh_my_pinko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ