第十二話~神々の夢~
───長い雪の時が終わり、新しい命と
山ではフキノトウやコゴミやワラビにゼンマイ。
海ではサワラやマグロやタイにアイナメ。
時が過ぎて世界が暑く熱された後、再び雪の時へと移ろうとする頃に自然はまた大きな恵みを与えてくれる。
ムラの皆で育てた木にはたくさんのクリやクルミが実り、よく熟れたニワトコは祭りに欠かせない美酒となり、畑では刈取りを待ちわびたヒエが頭を垂れる。
自然と共に生まれ。
自然と共に生き。
自然と共に死ぬ。
それが
食べた後に残る貝殻、魚や獣の骨と共にダシィたちも最期の時は
命はどこか途中で消えてなくなったりはしない。
一度生まれたものは、そう簡単に消えたりはしない。
命は巡り巡って、再びこの世界へと帰ってくるんだ。
川で生まれた
……そういえば、誰かがおかしなことを言っていた気がする。
『ムシュが何故自らの皮を脱ぐのか知っているかい、ダシィ。それはね───』
────────────────────
「……を食べて……生と死をつかさどるようになったから……あはは、うっそだぁ……」
「ダシィ?おーい、そろそろ起きろー」
「むにゃむにゃ……あれ、パパ?」
懐かしい夢から目が覚めるとそこにはスーツ姿のパパがいた。それにここはパパの車の助手席で、どこかのお店の駐車場に停まっているみたい。
お日さまはとっくに沈んで、すっかり夜になっていた。
おかしいな、ダシィはコージくんたちと釣りをしていて……。
「コージくんたちから連絡があってな。ダシィお前、お酒をガブ飲みして寝ちゃったそうじゃないか」
そうだった。
骨酒があまりにも美味しすぎて、ダシィったら何合も飲んじゃって途中で寝ちゃったんだ。
骨の炙りやお魚ハンバーグが美味しすぎたのがいけないんだよ。まるで湯水のようにスルスルと呑めちゃった。
コージくんたちはパパにお迎えの電話をしてくれた後、それぞれ自分の親の迎えを呼んでお家に帰ったらしい。
「深酒もほどほどにしておくんだぞ。
……それにしてもダシィ、さっき寝言で何か言ってなかったか」
「寝言……うーん、なんか懐かしい夢見てたような」
「懐かしい夢か。それって1000年前に俺たちが初めて出会った頃の……」
「ううん、もっと昔の……ダシィが
「もしかして、何か思い出せたのか」
「わかんにゃい。でも、誰かが話しかけて───」
「ダッシィィィちゃぁぁぁんッッ♡
「ダシィーッ!?」
変な声出ちゃった!
バァンッと勢いよく車のドアが開けられるとダシィは物凄い力で誰かに抱き締められる!
むぎゅぅぅぅ~!でっかいおっぱいに顔が塞がれて息できないぃぃぃ~!
「ナガメ、ストップストップ!ダシィが窒息する!」
ママじゃん!
しかもめっちゃお酒くさい!めちゃくちゃ酔っ払ってる!
パパが必死になって引き離してくれたおかげでダシィはなんとか一命(?)を取り留めたよ。
「ぶうぅ~!返してくださいよ~ダシィちゃんを~!もっとギューってしたいんですぅ~」
「ダメだ。まったく、親子揃って呑み過ぎだ」
どうやらママは今日新しく入った
パパに抱っこされながら居酒屋の中に入ると、そこにはだいぶお酒が回った
「おっせえぞ八塚ぁ~!ほらさっさと座れー!大将、取り敢えずあいつに大ジョッキ!」
「八塚くんやっと来たぁ~。
ナガメちゃんと上総先輩のペースに付き合わされてもう大変だよぉ~アハハッ!」
「……妖怪の肝臓ってやっぱおかしいって……ウップ」
「今日はまだまだ呑みますからね!繋くん、ダシィちゃん!」
「……ママは新しい職場で楽しそうにやっていけそうだね、パパ」
「ははっ、そうだな」
美味しい焼き鳥や焼き魚。
綺麗に盛り付けられたお刺身や良い出汁が出ているお鍋。
それらを囲んで話に花を咲かせる皆。
───そうだ。ダシィはずっと前にも見たことがある。
火をかけた土器を囲んで、ニワトコの酒を酌み交わして談笑するムラの皆。
大きなイノシシを狩った時の話、山のようなクジラを獲った時の話、北の大島との交易の話。
他愛のない、いつもと変わらない……でも、“
ダシィが生きていた頃とは、変わってしまったこともたくさんあるけれど。
きっと、変わっていないこともたくさんあるんだ。
……でも、やっぱりちょっと寂しい。
もう会えないってわかってるけど……会いたいよ……ムラの皆に。
ダシィの……大切な家族に。
顔も……声も思い出せないお母さん……お父さん……それに……。
「“デチィ”……?」
うぅっ、頭が痛い。
大事なことを忘れている気がする。
デチィ……デチィって誰?誰だっけ。
絶対に忘れちゃいけないのに。
……あれ?ダシィはどうして“カミサマ”になったんだっけ。
どうして1000年前にパパとママに出会ったんだっけ。
ダシィは……ダシィは……。
どうして死んだんだっけ───。
────────────────────
とてもちっちゃなカミサマが生まれました。
カミサマはカミサマになる前にとても偉いことを成し遂げたのでこうしてカミサマとなったのです。
───でもヒトがカミサマになるには代償がありました。
シモキタ怪異奇譚《フェアリーテイル》~地元に戻ったらヤマタノオロチの幼馴染み嫁と縄文人の娘ができました~ 井上周太 @inouesyuta2023
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シモキタ怪異奇譚《フェアリーテイル》~地元に戻ったらヤマタノオロチの幼馴染み嫁と縄文人の娘ができました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます