第7話 箱庭の町②
「お願い魔女さん、おばあちゃんを助けて!」
雨がしとしとと降る中、女の子の声が町の中に響く。
周囲には変わらず仕事をする人や買い物に訪れる人。幾人かの視線がクラゲの魔女と女の子に向けられていた。
クラゲの魔女は女の子の言葉を聞いて元気に頷く。
「あい♪」
その言葉に女の子は安堵の表情となる。
「良かった、じゃあ早速一緒に来て」
女の子はクラゲの魔女の手を引いて足早に歩き始める。
昨日と同じ天気に同じ道。違うのは魔女を見る視線が増えている事。
けれど魔女は周囲に目をくれることなく、鼻歌を歌いながら女の子の後を付いていくばかり。
「ここはとてもきれいな町ね♪」
「そうなの。小さい頃からずっときれいで皆も優しくて、自慢の町よ」
高い建物、低い建物、整然として定規で線を引いたかのような綺麗な道。劣化しているところはあれど、大きな損傷はない。
綺麗すぎて、まるで現実にあるものではないみたいだ。
女の子の家につき、クラゲの魔女はすぐに老女を見る。
昨日と同じくベッド上に横たわっており、動く様子はない。
「昨日はおばあちゃんと一緒にご飯も食べたし、本も読んでもらったの。なのにおばあちゃん、朝になったらまた起きなくて、何度声をかけても目も開けてくれなくて……」
クラゲの魔女は笑顔で女の子の話を聞くばかりだ。
「魔女さん、おばあちゃんを昔のおばあちゃんに戻してください。もっと長くおばあちゃんとお話をしたり、一緒に遊んだりしたい。まだまだ一緒にいたいの」
ぽろぽろと女の子は涙を流す女の子。クラゲの魔女は笑顔のまま、老女のそばに寄り、昨日と同じように身体に触れていく。
「あい♪」
クラゲの魔女は何かの薬を取り出し、老女に飲ませた。
すると老女はすっと目を開け、女の子を見つめ微笑みを浮かべる。
「おはようアニー、心配をかけてごめんね」
「良かったおばあちゃん……目を開けてくれて」
女の子は老女に抱きつき長は、クラゲの魔女にお礼を言う。
「ありがとう魔女さん!」
「あい♪」
クラゲの魔女は昨日と同じように立ち去ろうとしたところで、何かに気付いたように振り向いた。
「次が最後よ♪」
「え?」
「特別な薬は三回まで♪ それじゃあまたね♪」
クラゲの魔女はそう言うとするっと外へと出ていってしまう。
「魔女さん、待って! もうおばあちゃんは大丈夫なんだよね?!」
女の子は急いで追いかけるけれど、クラゲの魔女の姿はどこにもない。
静かに雨が降るばかりだ。
◇◇◇
今日もクラゲの魔女は変わらずに薬を売る。
違う点と言えば、その傍らに黒髪黒耳の青年がいる事だ。
「さぁさお薬、お薬いかが? しゃっくりを止める薬や、猫の言葉がわかる薬に、食べ物全てが甘くなる不思議な薬があるよ。ただしこちらは特別製、一人多くて三つまで♪ 何でもあるよ♪ あなたはどんなお薬が欲しい?」
楽しそうに歌うクラゲの魔女とは違い、黒髪黒耳の青年は眉間に皺を寄せている。
大きな箱と大きな荷物を抱え、魔女の隣で座っていた。
「師匠……あと少しですか?」
「ええそうよ、多分ね♪」
クラゲの魔女と黒髪黒耳の青年は町の一角で営業を続ける。昼が過ぎ、少しした頃に連日訪れていた女の子の姿が見えた。
「魔女さん、魔女さん助けて……!」
女の子は必死の表情でクラゲの魔女に縋りつく。
「おばあちゃんが倒れて、動かなくなって……何でなの? 魔女さん、おばあちゃんの病気を治してくれたんじゃなかったの?!」
女の子の言葉に、クラゲの魔女は静かに口を開く。
「私は病気を治したわけじゃないわ♪」
「え?」
「私の仕事は薬を出すだけよ♪」
女の子の表情が見る見るうちに絶望へと彩られていく。
クラゲの魔女 しろねこ。 @sironeko0704
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