第22話 ポーション精錬
私たちは、私たちを陥れた者の企みを暴き出し、その報いを受けさせると誓った。でも、その相手は、多分王族。国に敵対しないで、報いを受けさせることができるのだろうか…。
「とにかく、この企みの全容を明らかにしないといけないわ。私たちが立てた仮説-『この砦の管理者を隷属することで、この砦を奪おうとしていた。』-を立証すること。そして、その首謀者を炙り出すことで、それはできるはずよ。」
「でも、私たちが、この砦の管理者となったことで、首謀者たちは私たちに手出しできなくなったのでしょう?そうなると企みの証拠なんて見つけることができなくなったんじゃない?」
「あの…、ルナ様、クロエ様、お二人は、王族との繋がりはあるのでございましょうか?」
「あるわけないでしょう。私は一介の冒険者よ。貴族にだって繋がりはないわ。」
「私も同じ。家督を廃された者に王族とのつながりなんてあるわけないでしょ。」
「レイ様たちもお二人とほとんど同じだったと記録に残っております。自由騎士の村に育ちましたが、ただの冒険者だったのでございます。そのレイ様たちが王族と強いつながりを持てたのは、レイ様とアンディー様のスキルによるところが大きいかと伺っております。それは、お二人がお持ちの職業とスキルです。」
「森の賢者と導師はそうだったのかもしれないけど、私たちは、まだ、何者でもないわ。でも、そうね。この砦とここの管理者となった仲間の為にも力は付けないといけないわね。これから、誰一人、王族に理不尽な仕打ちを受けないようにね。」
私が言うと、クロエも頷いて同意してくれた。
「それでは、何からお始めになりますか?ルナ様の精錬でしょうか?クロエ様のクリエートでしょうか?砦にある物であれば、何でもご準備いたします。」
「まって、その前に何か食べさせてくれない?朝から何も食べていないの。」
「「お腹空いた。」」
「お二人とも…、気が付かず大変申し訳ございません。直ぐに準備させますから少々お待ちください。」
バトラムがメイドゴーレムに指示して食事を準備してくれた。神父様たちや妹弟たちは、私たちがゴーレムビーの準備をしてる時に食べていたそうだ。
夕飯まであまり時間がないということで、サンドウィッチとお茶だけの軽い食事をとって、工房に連れて行ってもらった。
「バトラム、神父様を呼んできてくれない。」
「畏まりました。直ぐに呼んでまいります。ポーション瓶も初級から最上上級まで揃っておりますので、ご自由にお使いください。」
「神父様を呼んで何する気だ?」
「神父様にも話しておかないとね。この砦にまつわる私たちへの陰謀に巻き込まれたことと、もう教会へ戻ってもいいこと。」
「できたら、成人の儀で賜った職業は、どこかへ報告しているのか聞いておきたいな。私の職業を知っているのは、ラニザの町の神父様だけのはずだから。」
二人で話をしてるとバトラムが神父様を連れてきた。私たちは、神父様に今回分かったことをお話しした。私たちの職業のことやスキルのことは伝えてはいないが、私たちの話を信じてくれた。
「神父様、町の教会へは、戻ることができるようになりましたが、薬やポーションの作り方を教えていただくことできますか?」
「勿論だよ。その為に材料も持って来たのだからね。」
「よろしくお願いします。」
「ルナ、私は今からビーと中継コアを回収してこようと思う。バトラムに町の様子を聞いて回収してきても大丈夫そう、ならだが。」
「わかった。行ってらっしゃい。」
クロエは、バトラムと少し話し、直ぐに出て行った。町まで回収に向かったのだろう。
神父様の講義が始まった。
「まずは、初級回復ポーションだ。材料は、薬草、ボアの魔石、精製水だ。」
「はい。材料は…、精製水がありません。他の物は揃っています。」
私は、薬草10本とボアの魔石1個を作業台の上に出した。バトラムが乳鉢と乳棒、精製水を持ってきてくれた。流石、砦の執事長だ…?
「その大きさの薬草なら3本ほどで良いかな、この位の大きさに刻んで、乳鉢の中に入れる。ボアの魔石は、20g程を砕いて、天秤はあるかい?」
「はい。只今準備いたします。」
バトラムが天秤を持ってきてくれた。
「いいか?この位の量が20gだ。覚えておきなさい。」
「まず、薬草と魔石を一緒に入れて、乳鉢で摺り潰す。」
『ゴリゴリ、ゴリゴリ…』
「この時、乳棒を通して魔力を流し込むようにするんだ。」
「ゴリゴリ、ゴリゴリ…」
「すると、魔力と材料が反応して…。」
ボワッとほんの少し光った気がした。すると、乳鉢の中のポーションの原料はどろどろの緑色の物体になった。
「このドロドロに精製水を足しながら混ぜていく。乳鉢で混ぜてもいいが、一般的にはかき混ぜ棒を使う。この時も魔力を流し込みながら混ぜるのだ。水の量は、毎回違う。薬草の質もばらばらだし、魔石の質もばらばらだからね。緑色の濃さを目安にして同じくらいの効き目の初級回復ポーションを作るのだよ。あまりに濃いと苦くて飲めたものじゃないからね。」
神父様は、500ml程のポーションを完成させた。
「このポーションお借りしてよろしいですか?」
「おっ?おう、大丈夫だ。そもそも、材料は、君の物だからね。」
「ありがとうございます。」
私は、ポーションを乳鉢ごとアイテムボックスの中に収納し、精錬した。
「アルケミー・ポーション。」
「できました。これで、私も、材料からポーションを精錬することができるようになりました。」
「まず、アイテムボックスの中の足りない材料、精製水をたくさん作ります。バトラム、精製水をビーカーに入れて私に頂戴。」
精製水をアイテムボックスの中にいれ、中にある水を使って精製水を作る。
「アルケミー・精製水 500ℓ」
「やってみますね。アルケミー・ポーション 1ℓ」
「神父様が作って下さったポーションをお返しします。」
私は、乳鉢に入ったポーションをアイテムボックスの中から取り出した。ポーションは、エメラルドグリーンの透明な液体になっていた。
「これは、なんだ?私が作ったのは、初級ポーションだぞ。これは、上級ポーションではないか!これは、違う。私が作ったものではない。」
「では、私が作ったポーションを出しますよ。バトラム、1ℓビーカーを貸してくれない。」
私は、1ℓビーカーを受け取り、アイテムボックスの中に収納すると、私が精錬した回復ポーションをビーカーに入れて取り出した。
「神父様がおつくりになったポーションより少し色が薄いですね。神父様のポーションの方が効き目が上だと思います。精錬すると不純物資を取り除くことができるためなのか上級のポーションになるようなのです。神父様のポーションと私のポーションの違いは魔力の多様性だと思います。二種類の魔力によって作られているか一種類の魔力によって作られているかの差ではないかと思うのですが、合っているかどうかは、更に実験が必要です。」
「ポーションをそのままにしておくと劣化しますので、ポーション瓶に封入します。」
「バトラム、ポーション瓶の材料は砦にある?」
「粘土はございます。くず魔石はありませんが、ルナ様がお持ちなのではないでしょうか?魔物の魔石なら何でもようございます。」
「ボアの魔石ならまだたくさん持っているわ。じゃあ、粘土を持ってきて。」
バトラムに粘土を持ってきてもらい、アイテムボックスの中に収納。
「アルケミー・上級ポーション瓶 100」
まず、神父様のポーションを収納して、ポーション瓶に封入。5本のポーションができた。上級+の回復ポーションだ。この5本のポーションは神父様に渡す。講義料という訳ではないが、教えてもらったお礼として奉納だ。
「他のポーションの作り方を教えていただけますか?」
「………。」
口をあんぐり開けたまま固まっている神父様。
「神父様。神父様。あの…。他のポーションは…。」
「あっ、あまりに驚いてしまってな。上級回復ポーションなどと言うものは、ダンジョンからごく偶にドロップするもので、作れるものとは思ってなかったのでな。んんん?あっ、他のポーションだったな。毒消しポーションの材料は手元にあるか?」
「あの…、材料は、何なのでしょうか?」
「あっ、そうだな。知らないから教わっているのだったな…。毒気し草、この辺にいる魔物と言えば…、ポイズンスネークの魔石と毒袋だな。」
神父様は、上級回復ポーションを見てからしどろもどろだ。毒消しポーションも同じく上級になった。
魔物毒用毒消しポーションは、血清を作らないといけかったため、血清が出来上がって教えてもらうことになった。
「次は、中級回復ポーションだ。このポーションの材料と加え方は複雑だぞ。まず、ボアの魔石を粉末にしないといけない。乳鉢に入れて乳棒でゴリゴリ摺り潰す。この時に下手に魔力を流すと魔石がどろどろになってしまうから気をつけなさい。魔石の粉末が出来たら他の材料は、薬草と精製水、それに、人の血液だ。血液は、7滴ほどなのだが、それがないとできない。では、作ってみるぞ。」
神父様に作ってもらった中級回復ポーションを精錬したら、初級エリクサーになってしまった。1ℓの初級エリクサーを砦にあった初級エリクサー用のポーション瓶に入れた。生まれて初めてエリクサーを見た。私もびっくりした。
血清ができた後作った魔物毒用毒消しポーションは、状態異常解消ポーションになってしまった。まあ、上級毒消しポーションがあれば、魔物毒用毒消しポーションは必要ないから大丈夫だ。
このポーションを使って、調剤ギルドを味方につける。反撃はこれから始める。
それから、成人の儀の時に賜った職業は、教会の本部に報告するのかを聞いてみた。答えは「イエス」昨年から報告することになったのだそうだ。
教会は、信頼できない。クロエの職業が知られたのは、教会が絡んでいると見て間違いない。ミゲル神父様には、いつまでも私たちの味方でいてもらわないといけない。砦の管理者の一人なのだから。
陥れ入れられた両親の連座を免れた私は、債務奴隷から成り上がり、復讐する。 伊都海月 @itosky08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます