第21話 陰謀の輪郭

 私とクロエは、この国に復讐することを誓い合った。でも、それは、この国やここで暮らす人たちへ向ける復讐ではない。私たちを陥れた者たちへの復讐だ。


 「それでは、お二人は、この国に敵対するとおっしゃるのですか?」


 「「違うわ。」」


 私たちは、同時に答えた。


 「私が、いいえ、多分私たちが復讐したいのは、私たちを陥れようとした者たちになの。両親やクロエのパーティーの仲間を殺すように命じた者たちへその報いを受けさせたいだけ。」


 「私もそう。暗殺や反乱を企てようなんて思っていないわ。この砦と契約した以上、私たちにもこの国を守る義務はあると思っている。」


 クロエが答え、私も頷いた。


 「納得しました。お二人は、あなた方への陰謀を企てたものの正体を知り、陰謀を明らかにした上で、その報いを受けさせたいと仰るのですね。」


 「どうして、私たちへの陰謀ってことになるの?私たちには、陰謀を企てられるような価値なんて認められていなかったわ。クロエの職業はともかく、私は…。」


 クロエの職業はともかく、私の両親は、私が成人する前、つまり、私の職業が明らかになる前に処刑されていた。だから私は連座によって処刑されることがなかったのだ。両親の罪が明らかにされたのが(でたらめな証拠によるでっち上げの反逆罪だけど)後、5日遅かったら私も連座で処刑されていたかもしれない。


 「ルナ様、この国には、魔術や魔法があるのですよ。未来は変わるものではありますが、先見や予見と呼ばれる類のスキルを持つ者もかなりの数存在するのです。」


 「それじゃあ、私たちの大切な人たちは、その先見や予見なんて言う占いか何かのせいで殺されたって言うの。」


 「そう言っているわけではございません。ただ、ルナ様が成人なさっていなかったことが、ルナ様の価値を知られていなかったことにはならない可能性があるということです。もしかしたら、ご両親のお役目に関わる価値だったのかもしれません。しかし、あなた方御兄弟の全員を隷属化しようとしたことの説明にはなりませんね。」


 「ちょっと待って、私たち姉弟とクロエに共通していることがあるわ。」


 「それは、何でございましょう?」


 「「この砦の管理者になったこと。」」


 「しかし、砦との契約がございます。」


 「だから、隷属をしようとしていたのよ。砦との契約に影響されないうちに。王宮の陰謀の狙いは、この砦。この砦を自由にすることができるように管理者になる者を隷属化したかった。でも…、変ね。私たちは、陰謀によってこの砦を二人で訪れることになって、管理者になった側面がある。」


 「揺らぐ未来と揺らがない未来でございますね。多分、お二人は、いずれ出会い、この砦の管理者になったのございましょう。それと、ルナ様の妹弟様方も同様に揺らがない未来に管理者となる方々なのではないでしょうか。」


 「でもそれって、この砦の管理者を害さないという契約には違反しないの?」


 「もともと、隷属化されていても砦を害したことにはならないでしょうね。それに必要であれば、隷属化を解除する薬は、この砦の中にございますから。」


 「薬って、この砦の中にどのくらい保管されていたのよ。もう、効能は消えているんじゃないの?」


 「ルナ、そんなことは、今は、いいわ。もう少し、陰謀がどうして企まれたのか考えてみましょう。王国?は、この砦を管理したかった。この砦の中に自由に入ることができるようにしたかった。と考えて良いのよね。」


 「クロエ様、しかし、この砦に王室はもちろん、王宮の方も本来自由に入ることができますよ。もちろん、この砦と、管理者を害することを目的にしなければですが…。」


 「王室や王宮は、どのくらいこの砦に来ていないの?」


 「そうですね。レイ様方がこの砦を出て行かれてからは、一度もいらっしゃっていません。その当時は、たくさんの不法侵入者がこの砦を訪れて、撃退されておりましたから、来ることは難しかったでしょうが…。」


 「たくさんの不法侵入者ってどうして?その時は、誰かこの砦で暮らしていたの?」


 「いいえ。どなたもいらっしゃいませんでした。でも、レイ様方の行方を探るためだとか、この砦の中にあるたくさんの魔道具を盗むためだとか様々な理由があったとは思います。」


 「でも、契約があったのなら、その襲撃者は、王国ではなかったのでしょう。一体誰がそうたびたびこの砦を襲撃していたの?」


 「この砦の中にある知識や技術を欲する者は、数多くいましたから、誰がと決めることはできませんが…。そうですね。強いて挙げるなら、他国の者たちでしょうか。レイ様の飛行魔道具を利用して異国の者たちが数多く訪れておりましたから…。」


 「じゃあ、私たちへの陰謀は、外国の者たちが企てたの?今の、この国には、そう多く外国から来たものはいないわ。交通手段がないもの。魔の森を抜けてくる屈強な冒険者くらいよ。それとも、国王が外国人なの?この国の王様が外国人ってあり得ないでしょう。」


 「これから先は、想像だけになってしまうわね。」


 こんな時、クロエは、適切だ。話が膨らんでとんでもない方向に行こうとするところに歯止めをかけてくれる。


 「私たちは、砦の管理に関する企みに陥れたられたと結論付けるけどいい?」


 「そう仮説を立てて、証拠を見つけて行きましょう。そして、必ず、その陰謀を暴き出し、報いを受けせる。」

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