第20話 復讐の相手

 「国王陛下ですって!」

 驚き、大きな声を上げるクロエ。


 「この国で、陛下と呼ばれる方は、お一人。国王陛下だけでございます。」


 「私たちを、陥れたのは国王陛下なの。私の父や母にありもしない罪を着せ、処刑した上に、私を債務奴隷に貶めたのは、この国だと言うの?」


 「それは…、それは少し違うと存じます。。この国とは、契約がございますから…。私共の砦との契約でございます。」


 「この砦と国との契約?ってどんな契約なの?」

 クロエが聞いてきた。私も知りたい。


 「『私共の砦は、この国をスタンピードから守るために全力を尽くす。国は、私共の砦とその管理者を害さない。』という相互契約です。魔術契約で互いに縛りあっております。レイ様は、砦の住人を害さないとしたかったようですが、そうすると、この砦が治外法権的な扱いになってしまい兼ねないと受け入れられなかったそうです。その為、住人の方が攫われそうになったことが何度か起こり、今のような厳重な、警備体制と設備が整えられました。」


 どうして、住民が攫われそうになるのか疑問はあったが、契約の内容はわかった。


 「それでね。理由が分かった。そして、私たちの敵がこの国だと言うことも確信できたわ。」


 「どういうこと?」


 「ムラオ神父がフォレストメロウを急に出て行くことになったのは、国王の命令でしょう。それは、神父を町に残して、私や妹弟たちを探し、攫わせようとすることが、この砦の管理者を害することになるからじゃない?つまり、はじめムラオ神父は、私たちを害することを目的に国王の命でフォレストメロウに来たということの証明になるわよね。」


 「まあ、具体的な証拠はないけどね。状況から考えるとそう考えられるかもしれないよね。」

 クロエは、冷静だ。客観的に聞いてくれている。


 「ルナ様、シスター・ブランシュが戻ってきました。」


 「会話と状況を伝えて頂戴。」



 「シスター・ブランシュ、私は、準備ができ次第王都に戻ることになった。これからのことを伝えるから執務室に着いて参れ。」


 「え?はい。」

 シスター・ブランシュは、怪訝なそうな顔をしながら、ムラオ神父の後をついて行った。


 執務室に入ると、神父は、椅子に座り、シスター・ブランシュも座るように指示した。


 「今までの命令は、全て取り消された。」


 「はい?全てとは、ベイリー家の子どもたちを全員隷属させることですか?」


 「それと、クロエの捕縛と隷属の命令だ。」


 「それは、わたくしは存しませんが…、クロエならつい最近、この教会に泊っていたと思います。」


 「では、シスター・ブランシュ、そなたは、クロエの捕縛について何も聞いていないのか?」


 「はい。どなたからも承っておりません。」


 「クロエ捕縛は、別のルートか…。まったく…、面倒な。わかった、その件については、私が、指示取り消しの手続きをしておこう。」


 「では、わたくし、これからどうすればよいのでしょうか?」



 「ちょっ、ちょっと、どうして私の名前が神父から出てくるの?しかも、捕縛と隷属だなんて…、もしかして、私の仲間が殺されて、私が野盗の奴隷になっていたのって国王の指示なの?」


 クロエも私も混乱中だ。国王の指示で捕縛され、隷属化されようとしていたってどういうこと?しかも、この砦の管理者になったからその指示が取り消されたって…。国と砦の契約があるからと言って…。ちょっと…。


 「あの…、クロエ様、ムラオ神父がシスター・ブランシュに指示をしましたが、お伝えしていいでしょうか?」


 「あっ、そうだった。頼む、続きを聞かせてくれ。」


 「では、掻い摘んで。ムラオ神父は、自分が戻った後新しい神父をよこすからそれまで教会で待機するように伝えました。ただ、ミゲル神父や他のシスターが戻ってきたら、教会を任せて王都に戻って良いそうです。ミゲル神父への疑いは、晴れたと言ってやれと、喜んで帰って来いと伝えてやれという指示でした。」


 「ミゲル神父、伝えたら喜ぶかしら?」


 「微妙、きっと怒ると思う。」

 とクロエ。


 「私もそう思う。」


 「でも…、どうやったら国王に復讐できると思う?」


 「クロエ様、それは、あまりに不敬が過ぎると存じます。」


 「なんでよ。国王なら、何の罪のない冒険者を殺しても良いと言うの?私の仲間は殺されたのよ。私は、捕えられ、隷属の首輪で縛られていたわ。」


 「そうよ。私の両親は、反逆罪なぞ企てたりしていないわ。少ない給金で、ここの砦の鍵の管理と外壁の管理をしていただけ。中に入ったこともなかった。砦の役割を全うするため、スタンピードの危険を少しでも減らそうと、森やダンジョンにもよく行っていたわ。半分は、冒険者のような活動をしていたのよ。そんな父が反逆罪だなんて…。」


 ルナは、唇をかみしめ、目は、悔し涙でうるんでいた。


 「だから、私も、私の復讐の相手は、この国の国王だと思う。絶対許さない。どうしてでも復讐してやる。」


 

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