第19話 魔伝魔道具
「ルナ様、今、シスターが教会から出てきました。先ほどの正午の鐘を聞いて慌てて出てきたのでしょうか?追跡しますか?」
「いや、止めておきましょう。大通りで内緒の話をするとは思えないわ。今のうちに教会の中に侵入できないかしら。」
「では、ビーに侵入口を見つけて教会内部に入るように指示します。」
「小さな壁の隙間から中に入ることができました。ネズミか何かの通り道のようです。どこで待機しておきましょうか?」
「シスターと神父はどこから入ってくるのかしら…。差し当たり、シスターが慌てて出て言った扉の辺りに待っているように指示して。」
しばらくの間待っていると…。
「今、神父とシスターが戻ってきました。神父の執務室に向かうようです。気付かれないように追跡します。」
「ベイリーの子どもたちは何故いない。そして、どこに行ったのだ。」
「それが、昨日のうちに、姉のルナが引き取っていきまして…。」
「それがおかしいと言うのだ。兄弟には、借金があり、奴隷オークションの代金も手に入っていないはずだぞ。姉には、親の借金以上の負債を背負わせたはずだ。それなのに何故自由にこの教会に来ることができるのだ?」
「一昨日、教会に泊った時、両親の負債は完済したと申しておりました。」
「これでは、幾ら隷属魔術使いを連れて来ても意味がないではないか。しかし、あの娘には、金貨100枚の負債を負わせたはずだ。それはどうなった?金貨100枚、グラ・ゴーマンが支払ったことは、王都でも確認できているぞ。その、金貨100枚で、ルナ・ベイリーを奴隷として使役でするはずだったのたが…。」
神父は、グラ・ゴーマンが隷属の魔術に縛られ、この町の衛兵詰所の地下にある牢につながれていることは知らないようだ。
「ムラオ神父。ゴーマンは、すでにこの町の衛兵に逮捕されております。その罪状は、わたくしたちの知るところではありませんが、ゴーマン家には、ルナに押した焼き印の完全治療が言い渡されたと聞いております。」
「ルナのことはもう良い。ガキどもはどこに行ったのだ。昨日まで、ここにいたのだろう。
「はい。昨日の夕刻までこの教会の孤児院の中に居りました。」
「では、どこに行った。今朝から、町の門のところを見張っておったのだろう。見張っていた他のシスターを呼べ。確認するのだ。」
「それが…、私以外のシスターも、ミゲル神父も、今朝、私が起きた時にはいなかったのです。勿論、今朝一番の門番には、町から出て行く者たちを報告するように申し付けておりました。その報告によりますと、ムラオ様が、この町にお着きになるまでに出入りした者は、商人風の娘だけだったと聞いております。その他には、顔見知りの冒険者が20人ほどゴブリンタウンの方に向かっただけで、それ以外は誰も通らなかったということです。」
「ミゲル神父とシスターがいなくなった?この教会に馬車はあるのか?」
「ございません。この町に領主様と行商人以外に個人で馬車を持つ者など居りません。」
「そもそも、お主は一体何をしていた。何をしていれば、知らぬ間に神父やシスターがいなくなるというのだ。」
「何をしていたと言われましても…。朝一番に門番の中の手の者に、子どもたちが現れたら何とかして捕えておくように指示するため、いつもよりも早く起きたくらいでございます。その時には、すでにもぬけの殻となっておりました。」
「であれば、この教会を抜け出したのは深夜ということになる。そして、朝から誰も門から出ていないのであれば、この町の中にいる。ミゲル神父がいるにしても、女子どもを連れて深夜に門を出て行くなど愚かなことはしないであろう。直ぐに魔物の餌になってしまう。お主は、町の中、神父たちが立ち寄りそうな場所を探してまいれ。」
「はい。畏まりました。」
シスターブランシュは、いそいそと部屋の中から出て行った。神父は、バックの中から、四角い道具を取り出し、魔力を流しこんでいた。
「もしもし、グラティウス・デ・ムラオでございます。えっ?陛下でございましたか。直接、言葉をお交わし頂くなど、至極光栄でございます。」
「先ほど、フォレストメロウの町に到着いたしまして、シスター・ブランシュに状況を確認したところでございます。」
「えっ?今すぐ王都に向けてでございますか?」
「どう言うことでございましょう?」
「大変、失礼いたしました。滅相もございません。おっ、お許し願いたく…。あ、ありがとうございます。」
「では、直ぐに、はい。あの…、シスター・ブランシュは、いかように…。畏まりました。では、失礼いたします。」
「今、神父が部屋を出て行きました。追わせますか?」
「追跡できそうなら、お願い。」
都合が良いことにドアの下に少し隙間があった。ビーは、そこを通り抜け、配下の者に指示を出していた。
「今すぐ王都に戻る。お前は、シスター・ブランシュを探してまいれ。直ぐに教会に戻るように伝えるのだ。下ろした荷物は、全て馬車に積みなおせ。ここには、もう用はない。」
「ビーを動かしますか?」
バトラムが確認してきた。
「いや、このまま神父を見張らせておいて。王都までついて行く必要はないけど、シスター・ブランシュがこの後どうなるのか知りたいわ。フォレストメロウを出て行ってくれれば最高なんだけど…。」
「それにしても懐かしい道具を見ることができました。」
「なんのこと?」
「魔伝でございます。レイ様たちは、そう呼んでいらっしゃいました。」
「「もしもし」の後の会話と言うか独り言?を言っていたのってその魔道具にしゃべりかけていたからなの?」
「そうです。魔伝は、遠くにいる方とおしゃべりをする魔道具なのです。」
「じゃあ、あの神父遠くにいる誰かとおしゃべりしていたのね。」
「そうでございます。お相手は、『陛下』と呼ばれる方なのでしょうね。」
とバトラム。
「あんた、それって誰だかわかっていの?」
「はい。レイ様もよく魔伝でお話ししていらっしゃいましたから…。国王陛下のことでございましょう。」
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