試作童話1號

天草四浪

王様と絵描き

ある日旅の絵描きが来た。

王は芸術品を集める趣味もありその絵師と親しくなった。

絵描きがひたすらに花の絵を描き続けるところから何か拘りがあるのだろうか。王はなんとなしに絵描きへ聞いた。

すると絵描きは1つどうしても描きたいモノがある。そのための試作としてこうした花を沢山描いているのだと言う。

「ですが今なら描けそうです。それに、あなたにもみせたい。」

と絵描きは何かを決心したかのように、小さく頷いたあと嬉しそうにそう言った。


しばらくして赤い花の絵を見せ、絵描きは私がずっと描きたかった生きている絵だと言う。

王は確かに絵描きの言うように、鮮やかで生き生きしていると感心した。どこか見るものを惹きつける存在感を有していた。

またこの絵は生きているからこそ死も存在すると言う。そうなった時、絵は色褪せ歳をとり、やがて黒くなり完全に黒くなるだろうと。

「それは、凄い。更に生きていて死も存在するとは...。

確かにこの絵は生きているな...黒くなって仕舞 うのは悲しいがそれによってまたこの絵が儚く美しいものにかんじる。」

「王様、やはり分かりますか」

絵描きは子供の様に無邪気に笑う。共感者がいたのがとても嬉しいのだろう。

「ところで、お前は最近結婚しただろう。

その相手の娘とこの花はどちらが美しい?」

そんな意地悪な質問を王はニヤニヤとしながら聞く。

「同じです」

絵描きは絵が描けたこともあり、満足気な表情と共にそう答える。その結婚した娘の事も絵を描く事と同じくらい愛していると言うことだろう。


その日、絵描きは王に別れを告げた後、旅にでた。どうやら、今回の絵を最後に使い切ってしまった画材を探すためだそうだ。


◼️余談

狭い小屋で若い女の死体が見つかった。

その死体は切り傷、刺傷がある割に出血は少ない。死体の肌は驚くほどにしろかった。

近くに置いてあった絵筆の先が血で固まっていた。

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試作童話1號 天草四浪 @aoao9029

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