第4話 ニューメンバー
放課後、犬居の物理的強制も下、モノトーンの扉を前に職員室に訪れていた。
「失礼します。美術科二年、犬居 翔です。 ゲーム製作部顧問、宇城幸希先生おられますか?」
あの躍然たる犬居の姿からは想像ができないほど、礼儀の正しく入室している。職員室を外から覗いている乃愛は、別意味で感心していた。
「_____やっぱり、人格詐称。」
乃愛が今朝のことをいまだ引きずって恨み言を呟いていると、用事を伝え終えた犬居が、「失礼しました。」といって、幸希と共に職員室を出てくる。
「彩条さん。初日の授業はどうだった?」
「デッサン、楽しかった。」
「そう、それはよかった。それで、犬居が話してた内容なんだけど、大部分の先生が明日ならってことで、部活動見学は明日からってことになった。ただ、俺が担当してるゲームクリエイト部なら大丈夫だけど、どうする?」
「え、ゲーム、クリエイト部?」
「ああ、俺が担当するゲームクリエイト部。パソコン部のゲーム制作限定版って考えてくれればいい。基本的に文化祭とかパソコンコンテストに向けた自主的制作活動をしている。ゲームエンジンとか、bgm制作用のソフトウェア、挿絵制作用のお絵かきソフト等をつかって本格的に作っていくって感じだ。まぁ、そこらへんは行ってみたほうが早いと思う。手っ取り早くゲーム制作を体験してみるってのも手だ。」
高校の部活にしては珍しい部活名を耳にして首をかしげる彩条に、クドクドと饒舌気味の幸希が説明する。
「そ、そうなんだ。」
鬼気迫る幸希の説明に、体をのけ反り冷や汗を流す乃愛は、反射的に答えてしまう。
「先生、熱く語りすぎだよ。」
「すまん、犬居の言う通りだ、熱くなってたな。すまん。」
「いや、そんな、大丈夫です。___その、宇城さんって本当にゲームを作るのが好きなんですね。」
「いや~。そんなことないよ~。」
「そんなにやけ顔で言われても説得力ないよ。ただでさえその熱量で変人だとか、変態教師だとか言われてるのに。すこしは自重してよね。」
「お前にだけは言われたくない。」
ギャーギャーギャーギャーと、教師生徒ともにとても賑やかな口喧嘩に、一人取り残される乃愛。静止するために手を出そうとするも、主張が苦手な乃愛にその戦いを止められるはずもなく、控えめに前に出た手が何度も迷子になってしまっていた。
そんなカオスに、一人、動じない人物がやってくる。
「先輩に犬居ちゃん、何やってるんですか。」
「「だって、
心底あきれていそうな表情で腕組をする填堵芭が、事情を聴き、ことの顛末を幸希と犬居が説明すること数十秒。
「・・・先輩、子供ですか。いいですか、先輩は、ゲーム制作とか生徒指導とかいろいろと変人ですし、変態です。これはもう当校の常識みたいなものです。覆えようがありません。なので、いちいち気にしてないでください。大人げないですよ。」
「うぅぅ・・・。」
「そして、犬居ちゃん。」
「は、はい!」
「犬居ちゃんは、先輩に自重しろなんて言える立場じゃありません。」
「で、でもっ」
「じゃあ聞きますけど、きょうここにいる彩条さんに休み時間ずっと、必要以上に、詮索しようなんてしてませんでしたか?」
「うぅぅ・・・。」
終了のゴングが鳴った気がした。幸希、犬居ともに
見事な喧嘩両成敗。その
「まったく、本当に毎日よくやるものですね。こんな
彩条を抱きしめ、その形のいい柔らかな双丘に、顔を包まれる乃愛。
胸に抱きしめられながら、頭を優しくなでられた乃愛は、何故か自身の母親を思い出してしまう。
暖かな時間に身を委ね、本日一番の幸せを噛み締めていると、背後でむくりと二人が立ち上がった。
「まぁ、冗談はここまでにして、結局彩条さんは、どうするの?部活見学する?」
「・・・?」
「ゲームクリエイト部のことだよ。」
「あ、そう、だった。でも、どうしよう・・・。」
先ほどのこともあったし、すこし悩む。また、公論が始まらないかが不安だ。
「私も行きますよ。この二人に彩条さんは任せられません。」
「・・・ほん、と?」
「はい!私が彩条さんを守ります!」
「じゃあ、見学、する。」
そう言って、填堵芭の腕をつかむ乃愛に、庇護欲を掻き立てられた填堵芭が、非常に嬉しそうに、再度彩条を抱きしる。填堵芭が落ち着いてから、幸希達はゲーム制作部へと向かった。
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C棟三階。
階段をのぼってすぐ左手に位置するここは、普段、第三情報室として使われている。放課後になると、ゲームクリエイト部の部員が各自、もしくはグループで活動している。茶色と薄橙を基準に構成されており、ばらばらに聞こえてくる静かなタイプ音と、真剣に話し合う生徒たちの声で、非常に落ち着いた空間になっている。
「すごい、おしゃれ、だね。」
「はい、いつ見てもモダンな部屋ですね。」
「生徒が集中できるようにデザインされているからな。」
「やっぱり、ここが一番集中できるんだよね~。」
教室の空間に、彩条と、填堵芭が感嘆をこぼす。
「大半は、ここで活動してるんだけど、私はここで活動してるけど、ユッキーは別の教室で活動してる。」
「ユッキー?」
「
「二つ教室を、持ってるの?」
「そう、ここはプログラムやシナリオ構成を行う場所で、ここを出て正面の部屋が、デザイン・BGM班の教室だ。」
「なんで、分けるの?」
「集中力をより上げるためだな。こっちじゃ、制作に向けた話し合いをする生徒が多い。話し合いながらデザインを決めるのはいいんだが、それが、イラスト制作の邪魔になったら意味がない。だから、シナリオ・プログラム・話し合いはこの部屋で、イラスト制作は向こうの部屋でって決めてるわけよ。」
「そこまで、考るんだ。」
ゲーム制作をする生徒たちに向き合った部屋割り。幸希自身がゲームを作っていることもあり、制作する者の気持ちを、しっかり汲み取っている。生徒たちの姿勢から見るに、幸希は最高の先生なのだろう。
部活動の様子を観察して、少しゲームを”制作する”という行為に、興味を持ち始める。これだけ真剣になれる行為とはいったいどのようなものなのだろう。と、何より、作られた自分が、作られた側に立った時、何を作るんだろう。そんな形容しがたい感情が少し、本当に少しだけ、掻き立てられた気がした。
ボソッ「私も作ってみたい。」
乃愛の口から零れた言葉を耳にして、幸希の口角が僅かに上がる。
「お、じゃあやってみるか、イラストとプログラム。どっちがしたい。
何なら、先輩たちのゲームしてみるか?」
「うん。やって、みたい。」
幸希の提案に、軽く頷く。
自分が作るものが何なのか、これから私は何を作りたいと思うのか。
その興味から、高校生活初日。この一度の見学によって、私はゲームクリエイト部に入部することとなった。
「彩条さんが入部するなら、私も入部します。」
「おい、何を言っている副顧問。」
賑やかな空間。口論も
ヒロインFlash Drive Sニック @Sniku
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