第5話 黒い髪の男の子
竜人の少女は「竜国」と「竜人」について、大々的な部分を切り取って私に説明してくれた。そこで分かったことはいくつかあった。
まずは竜人について。
竜人は一部竜と同じ体のパーツを持ちながら、人と同じ機能を持った生物のことをいう。そして竜と同じパーツに代表されるのが角や翼で、これはなんとなく私も理解していた。既に竜人とは会ったことがあるからだ。
劣世界に転移する前・・・・・・というか転移するに至った原因でもある謎の竜人。今思えばあの時、竜人という存在には会っていた。
―――我らと共に神を殺さないか?
あの竜人の声が思い起こされる。あの時、彼女が言ったことは気掛かりではある。だが、考えたところで私がどうにかできる問題でもないので、今は置いておいていいだろう。
次に竜国についてだ。
竜国は私が予想していた通り、地上からは遥か上空に位置していた。地理的に言うと、「絶界渓谷」という深く、巨大な溝のちょうど真上にある。
竜国は竜王と竜神の二つの存在が治めている国らしく、どちら側を推すかは人によって異なるようだ。ただ、最近は二つの勢力の間で亀裂が入り始めているらしい。
で、今私がいる場所。この部屋を含めた竜人の少女の家は、王都の真下、いわゆる地下にある。
窓の外が青空一択で他の建物が見当たらないのも、地下の中でも崖をくり抜いた場所に家が建てられているためだった。
と、まあここまでの話はそんなに重要ではない。なぜなら一番の謎は、劣世界に居たはずの私がなぜか竜国に居ることにあるからだ。
「なぜ、私は竜国の地下に?」
ヒマリは竜人の少女に聞く。
「さぁ、それはわたしにも解りませんわ。心当たりはありませんの?」
「ない・・・・・・かな。竜国なんて今初めて知ったわけだし」
「わたしも初めてでしたわよ、こんな地下に人が倒れているなんてこと。しかもそれが人間なんですもの」
彼女は苦笑して言う。
小柄な少女が自身よりも大きい生物をここまで運ぶのにどれだけ掛かったか。そこは本当に感謝してもし切れない。
「・・・・・・そういえば、他に倒れていた人は今どこに?」
他に倒れていた人、とはもちろんあのエルフのことだ。彼も劣世界が崩れる寸前、私と一緒にいたのだから同じ場所に倒れているのは必然である。
「あぁ、他の二人ですわね。それなら別の部屋に寝かせてありますわ」
彼女は部屋の外を示す。
エルフはあの時かなりの重症を負っていたはずだ。正直すぐにでも様子を見に行きたいが、私も私で身体がかなり重い。
けれど、竜人の少女の反応からして死んではいないようなので、ひとまず安心して良さそうだ。
ヒマリは胸をなでおろし、すぐに一つの違和感に気付いた。
「え? ちょっと待って、二人・・・・・・?」
「ええ、二人ですわよ。エルフと、あなたと同じ、黒い髪の男の子」
黒い髪の男の子!?と思わず聞きたくなるが、とっさに喉で止める。これは赤の他人だった彼女に聞いても意味のないことだ。
しかしまったく分からない。その黒い髪の男の子とやらは、たまたま私たちと同じ場所に倒れていたのだろうか? 私と彼の他にあの場にいたものと言えば幼竜くらいしかいなかったはずだが・・・・・・。
「・・・・・・いや、待って。幼竜・・・・・・?」
ヒマリは気付いた。
するとすぐに脳内の記憶を辿る。幼竜の姿を思い起こしてみる。
たしか、あの幼竜は・・・・・・黒い鱗に青い瞳。そうだ、あの幼竜は鱗が黒かった。ということは、まさか、その黒い髪の男の子は・・・・・・。
生まれた異世界どう生きる? 03 @482784
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