第4話 竜人の少女

「・・・・・・ん」


 閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 身体が何か温かい物に包まれていて、どこか懐かしい感覚だ。

 

「ここは・・・・・・」


 ヒマリは横にしていた体を起こして周囲を見回した。

 自分は今ベッドの上で寝ていたようだ。ベッドというまともな寝具で寝たのは実に久しぶりだった。それこそ神によって異世界に連れてこられた以来で、だから私は懐かしい感覚になったのだろう。

 部屋はこのベッドが二個入るか入らないかくらいのものだが、小ぶりなのが逆に安心する。ベッドの近くには子供用らしき小さな椅子が置かれている。

そしてヒマリはベッドの枕側に窓があったことに気づいた。


「・・・・・・」


 窓はカーテンで仕切られ、風だけがかすかに部屋に入り込んでいた。

 少女はそっとカーテンに手をかけ、一気に開く。


「・・・・・・え?」


 と、思わず外の景色に疑問を呈する声を出してしまった。

 カーテンを開けた先に待っていたのは一面の青空。地面がまったく見当たらず、ただあるのは上空ということを物語る冷たい空気だけだった。


「なに・・・・・・ここ・・・・・・」


 記憶が正しければ私は劣世界であのエルフと共にビル内にいた。そこで狂気じみた彼の妹?に攻撃され、劣世界も崩れ、絶体絶命の状況にあった。で、そこからどうなったのかが記憶にない。

 本来なら、さっきまで普通にベッドで寝ていたことも意味不明だ。そしてここは何処なのか。あのエルフや幼竜はどこに行ってしまったのか。

 劣世界が崩れた後の記憶を必死に思い出そうとして、数秒青空をぼーっと眺めていると・・・・・・。


 ―――コンコンッ


 窓とは向かい側にある扉が叩かれ、「入ってよろしい?」と自分よりも幼い声が入ってきた。


「ど・・・・・・どうぞ」


 ヒマリはぎこちない返事で声の主を迎い入れる。

 おそらくこの人こそ私をこの部屋まで連れてきてくれた張本人なのだろう。

 扉が開き、声の主が現れる。


「調子はどうかしら?」


 と言って現れたのは、十歳前後の少女だった。

 ストレートの赤い髪に、琥珀色の瞳。纏う雰囲気は見た目の何十倍も大人びている。しかし、なんと言っても見るべきところは彼女の頭についているモノである。


「・・・・・・角」


 ヒマリが呟くと少女は自分の角を見てから聞いた。


「あぁ、あなた、わたしのような『竜人』を見るのは初めてでして?」

「はい」

「そう、ならここ『竜国』のことも話さなければいけない、ということですのね」


 貴族のような、また今までに聞いたことのない口調だ。この子は竜国とやらの貴族なのだろうか。それにしては服装が庶民的すぎる気がするが。

 それに先刻から気になっていたことで、ここは竜国らしい。道理で窓の外に青空が広がっているわけだ。竜という名の通り、おそらく竜国は空の上に浮いているのだろう。


 さらっと出てきた新情報たちを整理していると、竜人の少女は小さな椅子に座って言った。


「分かりましたわ。では少し竜人と、竜国のことについて話して差し上げましょう」



 


 


 

 



 

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