あとがきに代えて(あるいは帰還の挨拶)
貴方がこの話を読んでいる頃に、私がどんな状況であるかは定かでないが、私がこの話を書いている今は、何とか生きている。
当たり前の話ではあるが、それが当たり前だとこうして書けるようになるまで、三ヶ月かかった。大事なことである。
私の身に何が起こったのか、その詳細は語らないつもりでいるが、同時に、本章を書き進めている内に筆が滑るかもしれないことも危惧している。陰鬱な気持ちを長く引きずり過ぎた反動で、軽い躁状態に入っている自覚がある。今のところ、興が乗るままに書き連ねたものを、殆どそのまま投稿してしまおうと考えているので、本当は書いてはいけない話にも触れてしまうかもしれない。はっきり言って、執筆途中の文章や創作メモまで勝手にアップされた人間に、今更恐れることは何一つない。……いや、復職の都合があるので、実のところ、職場への身バレを耐え難いほど恐れている。これまでのプライベート切り売り商法によって私の本名や別名義等に心当たりが生じた方も、どうかこのまま口をつぐんだままでいてほしい。
私が何とか復調し、現実社会に復帰を決意するに至った理由は、結局、職場(ひいてはその関係者や善良な一般市民)にこれ以上迷惑をかけたくないという強い思いである。お気づきかもしれないが、私は基本的には極めて忠実な国家の犬である。辞職したら生きる術を失うし、何より生きる意味も失う。驚くべきことに、「死ぬこと」そのものより「生きる術と生きる意味を失うこと」の方が耐え難く、このままでは本当に死んでしまう、というところまで来て、逆に踏みとどまる気力が湧いてきたという次第である(何の因果か、三月は我が国の自殺対策強化月間でもある)。正直、年が明けて2024年に入ってから、気が休まることなど一時もなかった。ただでさえ自分のパーソナルな問題で殺されそうになっているのに、現実のニュースもとにかく暗い話題ばかり目につき、そちらにも殺されるかと思った(1月末の漫画家のA 氏の自死の件は、マジできつかった)。それでも、生きている。生きることを選んでいる。
本章を書き始めた理由は、「どれだけ無様な章が並んで、どれだけまともな文芸作品としての適格性を失おうとも、本作は私自身できちんと完結させるべき」だと強く思ったからだ。A氏の件が無関係とも言えない。この物語を幕引きできるのは、私だけなので、私がやるべきなのだ。アカウントのパスを知る者なら、ワークスペースに残された未完成の章を勝手に投稿することは出来るが、こうして、新たな章を書くことは出来まい。……いや、別にやろうと思えば出来るのだろうけれど、真に私が書いたものでなければ、二次創作や贋作と一緒である。まあ、本章が真作だと証明する方法もないし、証明する意味もなく、誰に信じてもらえなくても「真実はどうなのか」というだけの話ではある。書かれている内容がどうせ虚構なのに、それを書いているのが本人かどうかにこだわらざるを得ないなんて、創作者の業はつくづく深すぎる。
書くべきかどうか迷ったが、Nは地裁での判決に控訴せず、実刑が確定したらしい。メディアで殆ど報道されなかったため、私はそれをS・Tからのメールで知らされた。さらに、S・Tは、カフェ紹介サイトCの管理者と繋がる人物の特定と接触に成功し、交渉を進めているとのこと。……私の関与しないところで勝手に物語を進めないでいただきたいのが本音だが、現実はそうはいかない。もう少し私に堪え性があれば、S・Tを主役に据えた構成のノンフィクション作品が書けたかもしれない、と思ったが、そもそも『カフェ巡り』を書いて公開などしなければ、S・Tとこんな形で知り合うこともなかっただろうから、そんな世界線は生じ得ない。むしろモブキャストとして『カフェ巡り』の物語に関わることが出来た僥倖に感謝すべきかもしれない。
2024年3月某日、復職に関する手続きで職場と電話連絡をとった日の夜のこと。私がある程度復調していることをどこからか聞き及んだのだろう、S・Tから着信があった。思ったより逡巡せずに電話に出た自分に驚いたが、必要以上にこちらに気を回すような空気感に堪えられず、卒のない話題のつもりで近況を聞いたら、さらに驚かされることになった。
「実は最近、体調不良でよく職場を休んでます」
「それは大変ですね。コロナとかインフルエンザ流行ってますもんね」
「悪阻です。人生で一番気持ち悪いです」
「え、おめでたですか!」
「10週目です」
「はあ」
「『俺の子かもしれない、と思って顔面蒼白になった』ってカクヨムに書いて炎上してください」
「炎上するほど誰も読まないですし、久しぶりの投稿がそれだったら頭おかしいですよね」
「確かに。『時期的に俺の子ではなさそうだ、と心底安堵した』の方がマイルドな展開ですかね」
「この期に及んで不適切な関係であることは前提なんですね」
「……あなたが悪いんですよ」
「やめろ」
念には念を入れて明言しておくが、私とS・Tの間に肉体関係はない。証明は極めて簡単であり、S・Tは空想上の存在なので、実在する人間である私と不適切な関係にはなり得ないのである。
本作品のどこからどこまでが真実でどこからどこまでが虚構なのか、もはや私にもよくわからないので、ネタを割ることは未来永劫ないと思う。当然、貴方が考察する必要もない。基本的に、各章の間に整合性がないので、辻褄や帳尻が合うことも、張り巡らされた伏線が見つかることもない。意味のありそうな言葉が癖のある文体で羅列されているだけで、感受性の豊かな人間がそこに寓話的な価値を見出してくれるのを一方的に期待している卑怯な雑文である。私自身の人間性が凝縮されている。そういった意味では「書くべくして書いた」作品であるように感じるが、素直にもっと真っ当な作品を書きたかったという思いもある。私は、世界的にも珍しい私の作品の熱心な読者であるが、作者としての私が好む作劇の方向性には少なからず不満があって、当世風の言葉を借りれば、「解釈違い」である旨を表明したい。私には、頭を空っぽにして読めるコメディ作品か、転生要素のない剣と魔法の世界のファンタジー作品か、メタ要素のない学園ラブコメ作品を書いて欲しい。今はただ、ここではないどこかの私以外の私に期待するばかりである。
最後に
本作品(『令和の実話系怪談(短編集』)を執筆するに当たり、本名とエピソードの使用を許してくれた実在の(生きている)妻と、頼る者のいなくなった自分をどん底から救い出してくれた(実在しないことになっている)イマジナリーフレンドのS・T、この二人の女性に心から感謝いたします。また、本作品は全て文章生成AIによって作成されたものとなる予定でしたが、実在しない文章生成AIによる出力内容が思ったより私の書いた文章に似ておらず、自ら打鍵する羽目になりました。今後の実在のAI技術の発展に期待しています。
また、半数以上が鬼籍に入っていることにされた、実在しないはずの今迫直弥の共同名義人の暴走にも、今は感謝しています。架空の墓参りには欠かさず行こうと思います。
そして、この文章を読んで下さっている現実の貴方と、貴方の後ろに立っている女性にも勿論感謝しています。私の知る限り、それは大丈夫な人です。
本作品の内容はフィクションであり、モデルとなった実在の事件・人物・団体とは一切関係なく、政治的主張や特定の国家との利益相反もありません。
――この世界で唯一の今迫直弥(実在のT・Y)
令和の実話系怪談(短編集) 今迫直弥 @hatohatoyama
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