私が仕事をやめたわけ

しらす

本屋をやめた

 働き出して3か月、あっという間だけれど私は本屋のバイトをやめた。原因は店長だ。


 私がここで働き始めたのは、今年の4月、閉店前の人のいない時間に残っていたのが切っ掛けだった。販促品のぬいぐるみをじっと見ていたら、

「そんなに好きなの? もう下げるからあげようか?」

と店長がこっそりくれたのだ。

 嬉しくて仕方なかったのと、ちょうど仕事を探していた私は、すぐにその店で働き始めた。


 いざ働いてみると、店長は整理整頓が苦手で、カウンター内はいつもぐちゃぐちゃだった。けれどこまめに気遣ってくれるし、他の店員さんも優しかった。だから自分で出来る限り整理整頓をして、みんなの助けになるように頑張った。やりがいのある仕事だった。


 5月には親睦会として飲み会が開かれた。

 初めてのお酒は楽しくて、2次会まで行った帰りは深夜だった。私は少し体を冷まそうと散歩しながら帰宅していた。するといつの間にか、後ろに店長がついてきていた。

「どうしたんですか?」

と訊ねると、店長はお酒で赤い顔でふにゃりと笑い、

「好きだよ」

と言った。

 私は一瞬迷ったけれど、店長の事は好きだったから、付き合う事にした。


 付き合ってみると、店長は意外に細マッチョで、お腹には筋肉がついていた。デートの時は、重いものはすぐ持ってくれるし、かっこいいと素直に思った。


 ところが梅雨明けの7月、同じ店の店員から突然の忠告を受けた。店長は既婚者だよ、最近仲がいいみたいだけど、気を付けた方がいいよ、と。

 びっくりしたのと、騙されていた怒りで店長を問い詰めると、彼は、

「結婚してほしいなんて言ってないし、ただ君に好意があるって伝えただけだよ」

とあらぬいいわけをした。


 彼への思いも、楽しんでいた仕事への情熱も一気に冷めた。だから私は仕事を辞めたのだ。


 まあ、本当のところは私にも新しい恋人が出来たから、なんだけどね。

 次の職場はパン屋さんだ。

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