第10話 その後

 僕が13年前に跳んだ理由は、どうも2つの世界の時間の流れが違うからという訳ではないのかもしれない、そうマグノリアさんから説明を受けた。僕を転移させたあの女は【転移】のスキルを利用したことがあまりなかったという。【転移】をきちんと学ぶのは面倒だから真面目にしていなかったらしい。その中途半端な能力によって(それに加えて僕自身がもつ【界渡り】も作用したのかもしれないが)、別の世界に時間軸がズレて跳ばされたんじゃないかって言ってた。

【転移】の上位が【界渡り】で、不十分ながら界渡りになっちゃったのは、僕も【転移】持ちだったから相乗効果があったんじゃないかと考えられるとか。だから、13年前の異世界に跳んじゃったと。そんなものなのかな。

【界渡り】については解っていることが少ない。今回の件は、【界渡り】の新たな事例になるだろうとも言ってた。

 マグノリアさんが2つの世界の時間の流れにそんなに違いがないのでは、とどうして思ったのかというと、僕と入れ違いで向こうの世界にいった靴がどうにもあまり劣化したような感じではなかったからだと説明された。異世界にある靴の状態が把握できるなんてすごいなと思ったんだけど、

「座標軸の設定確認のために、君の靴を片方だけ取り寄せたんだ」

と言われた。失せ物探しを基礎にした方法で、確実に行き来ができるかの最終確認がそれだったらしい。本来だったら、すでに数年経っているはずなのに、入れ替わった時とあまり変わらない状態だったので、おかしいと思ったのだそうだ。

「それでも、最終確認ができたことには違いないのでラリックス夫人に連絡をしたんだが。その後、君が再び行方不明になったと聞いた。実は君が再び戻ってきたことを聞いてから、残りの片方も取り寄せてみようとしたんだができなかった」

もしかしたら、僕が育ってきたが無くなってしまったのかもしれないと言われた。だから残された靴が消失したんじゃないかと。

片方になったから、捨てられただけという可能性もあるんじゃないかと思うけどね。

 2歳の時の僕がこの世界に戻ってきたことで帳尻がついてしまい、僕があの世界にいたことが無かったことになったのかもしれない。

 難しいことは判らないけれど、父さんと母さんが悲しんでいなければいいな、と今は思う。太郎君が僕の思い込みじゃなくて、本当に二人の子供だったらいいなって。

 あの時、交通事故に遭った15歳の僕が、どうして2歳の僕になって戻れたのかについては、謎のままだ。でも今の僕はあの2歳の僕でもあることは確かだ。なぜなら、一番好きな人にかあ様がいるからだ。


 僕は今、体は2歳のままだけれど精神的には15歳でもあるって状態だ。体は思うように上手く動かなかったり、精神的に体に引き摺られているのか上手くできないことに癇癪をおこしたりするし、ちょっとしたことですぐ泣き出したりもする。色々と説明されてそれを理解することはできていると思うけど、すぐ眠くなるしあまり上手く自分のことを制御できない。

もともとの年齢に戻ったこともあって、魔法などの勉強は取り敢えずお預けになった。

でも暴走する可能性もないとは言えないらしく、なにかのはずみで転移しても困らないように新しいコインのついてペンダントを掛けている。それと一定量の魔力を吸い取って魔力をためておける魔道具の白いぬいぐるみをそばに置いている。魔力が多いお子様用のものらしい。目の部分が魔力結晶になっていて、魔力が十分たまると目を取り替えるんだ。かわいいクマのぬいぐるみで、魔力があるから動くんだぞ。パンチョって名前をつけた。よく一緒に遊んでいる。

それから一ついい話があった。僕の父親は、小さい時はチビだったけど、18歳位からぐんと伸びて背が高かったんだって。きっと僕も背が高くなるよ、とかあ様に聞いた。


 それから2週間に一度、神殿で司祭様とお話している。これは15歳でもある僕の精神を安定させるためでもあるらしい。

家では、いや日常を送る中では僕は2歳児の扱いだ。それは仕方がないけれど、15歳の僕はそれでいたたまれなくなったりする。それで15歳として話す機会を、司祭様は提案してくれた。

それだけでなく異世界とこの世界の違いについても教えてもらっている。魔法だけではなく、色々な常識も違っているみたいだから。

日常で疑問に思ったことや異質に感じるたりして戸惑うことの相談にのってもらっているんだ。


 向こうの世界が恋しくないといえば嘘になる。

もし、トラノ達が馬鹿をしでかさなかったら、僕はあのまま自分の元のいた場所に戻れたことだろう。時々、それが頭をよぎる。

向こうに帰るための媒体は、父さんからもらった硯にしようと思っていた。父さんも大事にしていたものだから、きっと数年後だってあるはずだと思ったからだ。でも、実際には同じぐらいの時間しか経っていなかったようだから、媒体が硯で無くても問題は無かったかもしれない。

僕が覚悟を決めて戻った割には、数週間ぶりにひょっこり戻ってきた形になっていただろう。

そして、魔力の問題はあるかもしれないけど、あの日常に戻れたはずだ。学校に通って、友達と駄弁ったり遊んだりして。父さんと、母さんがいて。

「高校受験、やだな~」

なんて話をしたりしてさ。

2歳に戻ったことでもう帰りようがないし、きっと父さんと母さんのところには太郎君がいてくれると思う。

それに僕は今、かあ様を大事に思う気持ちがとても強い。かあ様と一緒にいたい。

そうだよね、僕はこの世界の子供だったわけだし。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移と思ったら、生まれ故郷でした 凰 百花 @ootori-momo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ