第9話 家に帰ろう

 気がつくとベッドに寝かされていた。ひどく体が怠いが、体に痛みは無いみたいだ。ここはどこだろう。病院だろうか。それにしては白くない。ぼうっと天井を眺めているとドアが開いた。

「目が覚めましたか」

部屋に入ってきたのは司祭様だった。

「ここは」

「神殿にある客間ですよ。君は神殿のあの拝礼室で倒れていたんだ。何があったのかわからなかったので、目覚めて話を聞けるようになってからと思ってね。君の家にはまだ伝えていない。君は私を覚えているだろうか」

多分、司祭様は家の事情を知っているから、家の者が関与している可能性を考えてくれたのかもしれない。でも、なぜ司祭様を覚えているかと問うのだろう。

「はい、クレピディフォリア司祭様ですよね。僕は、どうやってここへ」

「君に渡したコインには、何かあった時に1度だけ礼拝室へ跳べるような力が込められていたんだ。本当に、何かあった時の為のお守りのようなつもりだったのだがね。役に立てて良かった」

その心配りにはどれだけ感謝してもしたりないという気持ちになった。それで体を起こしてお礼を言おうとすると、体がうまく動かない、というより体のバランスが悪い。頭が重い?えっと思って自分の手を見ると、小さい子供の手だ。

「へ、なんで、縮んでる?」

「君が、礼拝室に来た時には2歳の姿に戻っていたんだよ。ペンダントのコインを見て君だとわかった。今、このコインを渡しているのは君だけだからね」

穏やかに司祭様が話してくれた。本調子ではないだろうから話は後でも良いと言われたが、何があったかを説明した。一刻も早く連絡して、安心して迎えに来てもらいたかったからだ。

だが、体が子供に戻ったこともあり、15歳の僕と2歳の僕がせめぎ合い、話の筋が纏まりもなくたどたどしい話になってしまった。それでも僕が2回も跳ばされた原因はあの男と彼と一緒にいたフローラという名前の見知らぬ女性だということだけは理解してもらえたようだった。

話し終えて安心したからか疲れたからか、眠くなってきた。

「ラリックス夫人には、私の方で連絡をしよう。君は迎えが来るまでここで安心して休みなさい。きっと直ぐに来てくれるよ」

司祭様はそう言って僕を寝かしつけてくれた。


 あの後、司祭様からの連絡を受けてかあ様が駆けつけてきてくれたけど、結局僕はしばらく神殿で過ごすことになった。僕が戻ってきたことをしばらく伏せとくためと僕の安全のためだって。僕が神殿でお世話になっている間に、様々なことが片付いたみたいだ。

なんと言っても、トラノが捕まった。トラノと僕を転移させたフローラは幼児誘拐などの件で起訴され捕まったらしい。裁判はこれから行われるらしいけど、諸々いろんなことが出てきていて裁判は長引くだろうとのことだった。

フローラは【収納】のスキルをもっていて、ラリックス商会で働いていたんだそうだ。この収納を利用して割と好き勝手なことをトラノとしていたという話だ。トラノと彼女は愛人関係にあって、フローラをラリックス商会へ連れてきたのはトラノだったんだって。商売をやっている人間にとっては【収納】スキルは有用スキルだから。有用なスキルを持つ人物を商会に連れてきたって自慢気に言ってたらしい。

でもこのスキルを悪用して、荷物の間引きやら転売やら隠れてやってたって。実は大事に至る様な大きな部分はバレていて、かあ様達が補填などをしていて大変だったらしいけど。

かあ様達はトラノだけでなく、トラノからの紹介で入ってきたフローラを最初から信用していなかったので、色々と手を回して監視してたんだって。

ヴィオラさんに後から聞いたけど、二人の関係なんてバレバレですよと言ってた。

トラノはフローラとの間に子供ができて、その子をラリックス商会の跡継ぎにすることを目論んだんだらしい。2歳の僕を行方不明にして、その後時期を見て居なくなった僕を探して、かあ様が行方をくらましたという形にしようとしていたんだとか。

僕があいつをなんとなく虫が好かないって思っていたのは、少しは最初に跳ばされた時の事を覚えていたのかも知れない。

子供の僕は転移でどこか遠くに飛ばせば戻って来られないのはわかるけど、かあ様は飛ばしただけだと帰ってこれるだろう。どうしようと考えていたのか、ちょっと怖い話だ。


でも、僕が大きくなって戻ってきてしまったことで慌てたらしい。もともとずさんな計画だったのに拍車をかけて僕を再び飛ばしちゃったと。そしたら、なんと僕が再び戻ってきて証言されちゃったときた。

その上、かあ様がこれまで調べてきた様々な証拠をたたきつけ、諸々の罪でしょっ引かれていったって。


 でもね、今回のことで色々話を聞いたけど、一番驚いたのはかあ様とトラノは本当は結婚していなかったということだよね。

籍を入れてなかったんだって。結婚式やなんやかやはキチンとやっていたし、書類にも署名していたけど、届け出をかあ様がしてなかったということらしい。

まあ、本当に結婚しちゃうと色々とトラノに権利とかが発生しちゃうし。結婚したと見せかけてトラノを安心させるために、仕組んだらしい。

なんじゃそりゃ、だ。ということは戸籍上でもあいつは父親ではなかったんだ。僕はあいつの子供じゃないから幼児誘拐も成立したのかな。

なんか気が抜けた。書類は結果を自分でちゃんと確認しなきゃ駄目だねと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る