いいわけの多い人生
高野ザンク
岐路
思えば、自分の人生は言い訳だらけだったな。
できなかったこと、やらなかったこと、、、
それだけではない。あの時、言い訳せずにいられたら、今とは違う人生を送れたのではないかと思うことが多い。
それすらも言い訳のように思えて、ヨースケは苦笑した。
「言い訳しても、それが
そう言っていた祖母のセリフをふと思い出す。
言い訳にも
それに、人生をもう半分近く生きてきてしまったヨースケにとっては、今、その言葉が自然と腑に落ちるのだ。
会社を辞めた時。ユーコと別れた時。独立が失敗して途方にくれた時。
そういう時にした自分の言い訳は悪い理由だったように思う。今、あの日あの場所に戻れたならば、そんな言い訳はせずに、素直な気持ちを吐露していたのではないか。
仕事も、伴侶も、金も、友人も。全てを失ったヨースケは後悔の最中にいた。
彼は今、岐路に立たされている。
生きるべきか死ぬべきか。
言い訳ばかりだった人生を、今さらどうやってやり直せばいいのか。きっと俺はこれからも言い訳、それも悪い理由ばかりを並べ立てて、自分に納得せずに後悔ばかりして生きていくだけじゃなかろうか。
ローカル線のプラットホームに佇んで、ヨースケはそんなことを思う。
次の電車の到着までは、あと2分ほど。
祖母ばかりではない。両親もいなくなり、独り身になった自分の人生は、もう終わりを告げても良いのではないかと、目の前の線路をぼうっと見ていた。
やがて電車は駅に近づき、警笛を鳴らしながらホームに滑り込む。
岐路、、、
キロ、、、
生きろ、、、
その時、ヨースケの耳にはっきりとその声が聞こえた。前に出そうとしていた足は止まり、逆に後ろへと身を背ける。
祖母のセリフには続きがあった。
「生きていれば、良い理由も悪い理由もするときがある。でも、どんな理由をつけたにせよ、命ある限り生きていくんだよ。生きろ、ヨースケ」
あれは、祖母から怒られないよう、つまらない言い訳をした時ではなかったか。祖母が怒らずに諭したことで、逆に俺は言い訳の上手い奴になってしまった。だけど、今なら祖母が俺に願ったことが、そのセリフの本当の意味が、わかる気がする。
これからするだろう全ての言い訳を良い理由にしてみようか。人生を終わりにするのはその後でいいだろう。
ヨースケは大きくため息をついた。
だからといって、なにが変わるわけではない。俺の人生はけっこうな崖っぷちだ。
だけど……
生きていこう。そう決めたのだ。
到着した電車に、はじめからそうであったようにスッと乗り込む。直前の自問自答は、生きるための言い訳だったのかもしれない。
ただ、それは間違いのない
〈終〉
いいわけの多い人生 高野ザンク @zanqtakano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます