いのちのふぁんたじー

りーしぇん

人間を守る「ファンタジー」

とある男子小学生のお話。


今日は日曜日。学校はお休みだ。

だから公園まで歩いた。


近道で行こう。

僕はそう思い、近所の廃屋の裏側から近道した。日の当たらない、ジメジメした道。


サクサク…


沢山の雑草を踏み分け掻き分け、コンクリートで舗装されたいつもの道に到着だ。


近道を抜ける時、軽くジャンプしながら抜けた。トンッと着地した時、足の裏にあったのは、コンクリートの割れ目から咲いた小さな薄紅色のハナだった。


ハナはペシャンコになっていた。



でも僕は気にしなかった。


誰のものでもないし、生き物でもないしね。


そのまま公園に急いだ。早く行こう。友達が待ってる。


 

今日は月曜日。学校だ。週の始まりはとても憂鬱。


公園に向かう途中の交差点。


歩行者用の信号が赤になったので止まった。



ふと足元を見ると


…アリが潰れていた。


僕が踏んだんだ。


 

昨日も何か踏んだ気がする。



でも僕は気にならなかった。たかがムシだ。無限と言っていいほどウジャウジャいる。信号が青になったので横断歩道を歩いた。


火曜日になった。今日は好きな漫画の雑誌が発売する曜日。だから休みじゃなくても楽しめる日だ。

 


 


登校中、歩いているとカラスが低空飛行しているのが視界に入ってきた。


車道を走っていたから、対向してきた車にブツカッタ。


 


 


車は止まったが、カラスも地面に突っ伏したまま動かなくなった。


 


僕は少し驚いたが、鳥博士でもむつごろうでもなかったので、また歩き始めた。


 


…まあ、人間じゃないしな。


 



人間の世界には「ファンタジー」がある。


僕らはそれに守られている。


根拠はない。でもだからこそ神聖なもの。そしてそれは人生においてナニカをぼかしてくれるもの。


 


だからドウブツとは違う過程と結果をたどる。


踏み潰されていのちが終わるなんてことはないんだ。


 


そう軽く考えて、僕は好きな漫画のことを考えだした。


水曜日になった。


今日は学校の特別授業で、屠殺の見学をしにいった。


 


僕らがいつも食べている肉の製造を学ぶんだ。


 


ウシは泣き叫んでいる。


ウシは涙を流している。


お構いなしに製造人はウシの喉元に大きい包丁を突き立てた。



僕は気分が悪くなって顔を下に向けたた。


 


だけどドウブツだからしょうがない。だって彼らには「ファンタジー」の加護がないんだから。


車にヒカレテも、包丁でキラレテもしょうがない。

 



木曜は飼っていたネコがナクなった。


とても悲しかった。


ペットの死は悲しい。


 


家族とあまり変わらない存在だったから。


でも


なぜだか僕の中の「ファンタジー」が


少し崩れそうになった。


 


でもそれだけはだめだと本能的な回避思考で思考に蓋をした。崩れるとナニカが僕を襲ってきそうで。何か嫌な事を気付かされそうで…。


 


考えるより先に、やりたいことが頭の容量を埋めた。




金曜日は印象的な出来事があった。


近所の駅で人間がトビコンダらしい。




あれ?………「ファンタジー」はどこなんだろう。


 


 


この結末…いのちの終わり、まるでドウブツみたいじゃないか。


でもまあ自分で選んだんだから、きっと…きっと…「ファンタジー」の加護はあるんだろう。


土曜の外出中「ファンタジー」は目の前で消え去った。



父親が亡くなった。死んだんだ。


上から落ちてきた鉄骨に潰された。


俺はそれを目撃して、その「ナニカ」の正体を知った。今まで蓋をしてきた、考えてこなかった「ナニカ」が写真の標準が合うような感じで輪郭がはっきり見えてしまった。

 


いつもその「ナニカ」を漫画や音楽、映画や占いや仕事で鼓舞しぼやかしてきた。


でも「ファンタジー」なんて無い。



あるのは「現実」だ。

普段意識しない現実はファンタジーの皮を破って突然牙を剥く事がある。

どの人間だってどんな偉人だってどんな天才だってどんな美人だってどんな富豪だって、いのちは僕が先週踏み潰した花と同じだ。違いなんてない。

それはもちろん消えるときも。

強いていうなら道に咲いていたか、歩いていたかの違いぐらいか。

そして終わるときも物語なんてものは介入しない。

芸能人かどうか、価値があるかどうか、友達かどうか。結局それも「主観」だ。


結局みんな何者でもない肉の塊なんだから特別に見える人も思い込みなんだ。

現実には特別な人間なんていないんだ。



僕は来年中学生になる。


この世界を、この現実を生きていく。


いつ踏まれても、いつ殺されても、いつ轢かれてもいいような覚悟と決意をもって生きていく。


 

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