第20話 互いを信じられぬ闘い!?

冒険を始め、数か月が過ぎた。東西南北に何千里と移動し、魔物と出くわす度、とてつもない体力と精神力、そして魔力を使い、3人とも、かなり憔悴していた。


「少し休む必要があるかも知れぬな…。どうだ。ペルシャロ」


「そうですね…。しかし、旅は最終局面に向かっているものと思われます」


「どういうことだ?」


「人間界を支配してる、魔物の中で最強と言われている<レオネアトロ―チェロッチア>が、北の外れにいると聞きました。この魔物を倒せば、魔界はほぼ、壊滅するかと…」


「それは良い情報だな!それも、何とかいう占術によるものか?」


「はい。この占術は確実な情報を得られます。しかし、<ファーサピーレカンツォーネ>で、とても厄介な情報を得ました」


「む?魔物が強い…そう言うことか?しかし、そいつを倒せば魔界は破滅するんだろう?」


ミトミルは、不思議そうに尋ねた。


「それが…情報が得られないのです…」


「ん?厄介な情報を得た…と申していたではないか」


ヒロイドケイスは何とも言い難い顔をした。


「そ…それが…街の名は<ノニジステ>と言うのですが、<モストロボ―>しかいないと言う情報なのです」


「それは…どういった…」


「“良い魔物”と呼ばれる魔物しかいない街の名です。そこに、<レオネアトロ―チェロッチア>が存在できるはずがないのです…」


「なに?」


「<ノニジステ>には、ほとんど魔力を持たず、人間とほぼ同じような生活をしている魔物たちの集合体です。そこにもしも、<レオネアトロ―チェロッチア>のような強力な魔力を持つ魔物が街に踏み入っただけで、<モストロボー>のような魔力の弱い魔物たちはひとたまりもありません。しかし…、<ファーサピーレカンツォーネ>では、<モストロボ―>が普通に暮らしていると言うのです」


「なんと…。ならば、その<ノニジステ>には<レオネアトロ―チェロッチア>はいない…ということか?」


「イエ…<ファーサピーレカンツォーネ>では、確かに<レオネアトロ―チェロッチア>が存在していると聴こえてくるのです」


「どういうことなのだ」


「…」


ペルシャロは難しい顔をして、答えが解らない…といった顔をしている。


「…<ノミレニコ>…を使っているのではないのか?ペルシャロ」


「!そうか!!その手がありました!!ミトミル!すごいですね!!」


いつも、特に役に立たない(酷い)ミトミルの一言で、ペルシャロの顔が変わった。


「どいうことだ?ミトミル、ペルシャロ」


「いいか、ヒロイドケイス、<ノミレニコ>は、敵ではないと装おう魔法だ。魔力を最小限にし、<モストロボ―>の生気を吸う、<レスピーララピッタ>と言う魔法を使い、どんどん強力化してゆく、<レオネアトロ―チェロッチア>の街を乗っ取る為に最初に使う常套手段だ」


ミトミルは、久々、自分の知識をまき散らすように鼻高々に言った。


「そうだったのか…。して、ペルシャロ、その<ノミレニコ>を見破り、<レオネアトロ―チェロッチア>を倒す手立ては何か考えはあるのか?」


「…それが…わたくしたちはわたくしたち同士を信じてはならないかも知れません…」


「なに?我らを信じてはならない?」


「はい。<レオネアトロ―チェロッチア>は、姿を100にも1000にも変化させ、それぞれを操り、置き換え、信じ込ませる…など、油断したら、騙されていることにも気づかぬうちにやられてしまうかも知れません…。今までで一番手強い敵と言えるでしょう」


「そ、そんな…。何か、対策はあるのか?」


「…」


ペルシャロはいつになく、険しい顔をしている。何も方法がない…とでも言いたげな、あのいつ、どんな時も、冷静沈着で、緻密な計画を立て、どんな危機も突破してきたペルシャロが、押し黙っていることに、ヒロイドケイスも不安を拭えない。


「ヒロイドケイス、ミトミル、<ノニジステ>に着いたら、わたくしを一切信用しないでください。わたくしも、貴方がたを一切、信用いたしません」


「そ…そこまでの相手なのか…?」


「もしも、お互いが闘うこととなった場合、何があっても、自分を優先に闘ってください。相手を信じるよりは…恐らく…己を信じたほうがまだ勝てる可能性があるでしょう…。もし、それが相打ちとなり、どちらかが負け、どちらかが勝ち、それが本当の仲間であるこの3人である可能性は…3%…と言ったところでしょうか…」


「さ!3%!?そ、それ以外になす術はないのか!?」


「…残念ながら…これが最善策化と…」


「なんと………」


ヒロイドケイスは絶句した。勝てる可能性が、このペルシャロ率いる3人が、今まで数多の敵を倒してきた我々が勝てる可能性が、たったの3%…?ヒロイドケイスは絶望にも近い心境だった。


そんな、ヒロイドケイスの顔を見て、ペルシャロ言った。


「ヒロイドケイス、ありがとうございます。今まで、わたくしを信じてくださり、厳しい特訓にも耐え、魔力さえ会得して…。あなたは、本当に素晴らしい剣士であり、勇者です。貴方なら、3%の壁も超えられるかも知れません。わたくしもその3%の為、死力を尽くすつもりです」


「君は…まるで助かるのは俺だけのような語り方をするな…。そんな言い方はよしてくれ。俺は、君を守りたいのだ。いつもいつも君に守られてきた。いつもいつも君に救われてきた。俺は、今度こそ、君の為にこの命を投げ出すつもりだ…!」


そう言うと、ヒロイドケイスは、ペルシャロをきつく抱きしめた。


「…ヒロイドケイス…わたくしは…強くありません…。いつだって貴方やミトミルに救われてばかり。弱い部分を必死で押し込められてこられたのは、貴方の強さのおかげです。…どうか…どうか…次の闘いで…貴方と生きて再会したい…」


ペルシャロは、細く体を震わせている。この小さな体で、未熟な精神で、それでも果敢に、勇敢に、占術師として、賢者として、ペルシャロは闘って来た。



震えながら、ヒロイドケイスの体に包まれながら、ペルシャロは思った。<レオネアトロ―チェロッチア>との戦いに備え、出来るだけの準備と特訓をしよう…と。再び、ヒロイドケイスを救うため。再び、ヒロイドケイスと出逢うため…に。





次の日から、2人の猛烈な特訓が始まった。ペルシャロは、新しい占術の会得。ヒロイドケイスは第5番、<ガヴォット>の習得。そして、ペルシャロは、ペルシャロのホームメイドブックから、ヒロイドケイスのために書き写した、<マジアリーブヴィジービレ>と言う本を与えた。その中に書かれている、魔法を、ヒロイドケイスは必至で覚えた。


しかし、どんなに<ファーサピーレカンツォーネ>では、どうしても<レオネアトロ―チェロッチア>の詳しい情報は得られなかった。よほど、<ノミレニコ>が得意なのであろう。情報が無いのは、かなりの痛手だったが、1週間、3人はそれぞれ、<レオネアトロ―チェロッチア>に対する準備を重ねた…。





決戦は、3日後と決められた―――…。

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わたくしはこの世界ではものすごい賢者だった!! @m-amiya

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