第2ボタン
夏目碧央
第1話 第2ボタン
3月の穏やかな日差しが、校舎脇の通路を照らす。俊介と陽太は卒業式を終え、クラスでの写真撮影も終えて、外に出てきたところだった。
「とうとう卒業しちゃったな。俺たち、長い付き合いだったよな。」
俊介がズボンのポケットに手を突っ込み、そう呟いた。
「小、中、高と同じ学校だったもんな、俺たち。とうとうお別れだな。」
陽太がそう言って、立ち止まった。
「お前さ、その学ラン何?第2ボタンだけって・・・。」
陽太が改めて俊介に言った。俊介も振り返って止まった。俊介の学ランには、第2ボタンしか残っていなかった。他のボタンは先ほど、同級生や後輩にあげてしまったのだ。
「逆に問いたい。普通第2ボタンが先に無くなるんじゃないのか?何故に、第2ボタンだけが残ってるわけ?」
陽太が真面目に言った。俊介は目を泳がせる。まだ、卒業生は余韻に浸り、ほとんどが校舎内に残っていた。なので、下駄箱の周辺には人がほとんどいない。
「それはね・・・。」
女子に廊下に呼ばれた俊介。
「第2ボタンください!」
と、頭を下げられたが、
「悪いけど、これは大切な人の為に取っておきたいんだ。他のボタンだったらいいよ。」
と言ったのだ。1人で来た女子もいれば、2人で来た女子も。
俊介はそのいきさつを陽太に話した。
「なるほど、大切な人の為にねえ。それは確かにそうだ。」
陽太が頷いている。
「お前もそう思うだろ?」
俊介が言うと、
「まぁね。でも、第2ボタンだけ留めてんの、変だぞ。外しておけば?」
陽太はちょっと呆れた顔でそう言って、また歩き出そうとした。その腕を、俊介が掴んだ。
「ちょっと待った。これ、お前がもらってくんない?」
そう言うと、第2ボタンを外し、裏ボタンを取った。その裏ボタンをボタンに嵌め、陽太の方へ差し出す。
「は?」
陽太はそのボタンをじっと見た。手は出さない。
「お前今、第2ボタンは大切な人の為に取っておくって言わなかったか?」
陽太がそう言うと、
「まあ、それは建前っつうか、言い訳だよ。誰か1人にあげたら喧嘩になっちゃうかもだから、あげられない口実。」
俊介がそう言いつつ、受け取れとばかりにボタンを持った手を陽太の方へ突き出す。
「それを、俺にくれると。」
「うん。」
「じゃあ、交換しよう。俺の第2ボタンはお前がもらう。それでいいか?」
陽太がそう言って、俊介の顔をじっと見る。
「いいけど、お前今、第2ボタンは大切な人の為に取っておくって、そう思うって言わなかったか?」
俊介は挑むように陽太を見返した。
(さあ、何て言い訳するんだ、陽太!)
心の中で俊介が叫ぶ。
「どうして、俺に第2ボタンをくれるんだ?」
更に俊介が言った。どんな言い訳が飛び出てくるのか・・・。
「お前が好きだからだよ。」
陽太はそう言って、差し出されていた俊介のボタンを受け取った。それを学ランのポケットに入れ、自分の学ランのボタンを上から二つ外し、第2ボタンの裏ボタンを取った。その裏ボタンをボタンに嵌めると、俊介の方へ差し出した。その頃には、陽太の顔は真っ赤だった。
「あ、ありがと。」
受け取った俊介も頬を染め、ボタンを受け取って学ランのポケットに入れた。そして、いきなりギュッと陽太を抱きしめた。
「うわ、何してんだよ。」
陽太が言うと、
「お前が、寒そうにしてるから。」
俊介がぼそっと言った。
「何だよ、その言い訳は。アハハハ。」
陽太がそう言って笑い、そのまま2人で大笑いした。
春風がそよそよと吹き、花壇の花が揺れた。
第2ボタン 夏目碧央 @Akiko-Katsuura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます