2倍にできるはんぶんこ

八咫空 朱穏

2倍にできるはんぶんこ

 最近、ご主人さまの機嫌がいい。


 ちょっと前にふる本屋古本屋さんに行って、そこで欲しい本がいっぱい買えて、魔法の研究が楽しいからということらしい。

 こういう時は、メルに何かしてくれることが多いから。ちょっとだけ期待して毎日を過ごしていた。


「ずっと研究をしていたいのだけど、頭が疲れてきちゃって。メリッサ、息抜きに甘いものを、一緒に食べに行かない?」


 その時が、来たみたい。


「おぉ! たべたいれすです! ついていきましゅ!」

「それじゃ、行きましょう。メリッサ、外に行く準備をしなさい」

「はーい!」




 そういうやり取りがあって、ご主人さまとカフェにきた。


「季節限定、ね。……たまには食べてみようかしら。メリッサ、どっちのを食べたい?」

 

 ご主人さまの方を見ると、ふたつの大きなパフェのイラストが描かれている紙が壁に張られている。


 赤い方がイチゴで、オレンジ色のはオレンジのパフェみたい。メルはどっちも好きだけど、今はオレンジの方を食べたい。


「メル、オレンジのがいいれす」

「それじゃ、私はイチゴの方にしようかしら」


 ご主人さまはメルと反対の方を選んだ。メルは同じもの食べたいから、ご主人さまが選んだ方に選びなおす。


「メル、ご主人しゃまさまと同じのにしましゅ!」

「イチゴの方にするのね。私は、オレンジのが気になっていたからそっちにしようかしら」


 ご主人さまはまた、メルと反対の方を選ぶ。


「やっぱり、オレンジのがいいれす」

「そう。それじゃ、私もイチゴの方にするわ」

「…………」


 やっぱり、ご主人さまはメルト反対の方を選ぶ。……なんでだろう?


「……メルは、ご主人しゃまと同じものが食べたいのれすよ? なんで反対の方を選ぶのれすか!」

「メリッサ、私にも考えがあるの。聞いてくれる?」

「うん。聞きましゅ」


 ご主人さまは、自分の考えを説明してくれる。


「私は、どっちのも食べたいの。だから、メリッサと反対の方を選んでいるの。同じものを頼んだら、どちらかしか食べられないじゃない」

「――!」

「これは、私がメリッサと反対のを選ぶことのを言っただけよ。どうしてもっていうなら、メリッサが好きなようにすればいいの」


 メルはどっちも食べたい。でも、メルがご主人さまと同じものを選んじゃったら、片方しか食べられない。次に選ばなかった方が食べられるのがいつになるかわからないし、食べられないかもしれない。


 ……最初から、ご主人さまはどっちも食べられるように考えていんだ!


「メル、ご主人さまと違う方がいいれす!」

「本当に、いいの? メリッサが頼んだ方は半分になっちゃうのよ?」

「それでもいいれす。ご主人さまと同じ味のがふたつも食べられて、2倍おいしいれしゅから!」


 ご主人さまが優しく笑う。


 メルのお腹がいっぱいになる前に、心がいっぱいになった。


 


 

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2倍にできるはんぶんこ 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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