異世界おむすび事情 〜転生者はつらいよ〜
明里 和樹
転生者のいいわけ
どうも! 現代知識と多少の魔法は使えるものの、特別なチートも無ければ前世の記憶も無かった転生者、デリシャといいます! 栗色の髪の三つ編みお下げと飴色の瞳した八歳児です!(挨拶) 家は『
これはそんなわたしの、ある日のできごと。
「ふーふふふーふーふ〜、ふーふふふーふーふ〜ん♪」
熱くないように《結界》魔法で手を覆い、《洗浄》魔法で綺麗にします。一摘みのお塩を手のひらに広げると、適当な量の白いソレを手に取って真ん中に別の食材を詰めて、ぎゅっぎゅっ、と握ります。緩すぎず握りすぎず、絶妙な力加減である程度の大きさにまとめると、指と手のひらで角度を付け、なるべく三角形になるように意識して整え、表面にくるっと海苔を巻いて…………よし、っと♪
ということでわたしは今、今日の
欧風ファンタジーな異世界でおむすび? というと不思議に思われるかもしれませんが、小麦とパンがあるんですから、お米とおむすびがあっても不思議ではありません(あくまで個人の感想です)。それに地球のヨーロッパにだってパエリアやリゾットとかありますし、ファンタジーな世界にお米料理があってもおかしくはありません。……海苔? 海苔は……なんかあったのですから仕方ないじゃないですか(開き直り)。で、あるのでしたらこれはもう──使うしかないじゃないですか! という訳でおむすびです。元日本人だからね、仕方ないね。
「でっきたー♪」
大皿におむすびを綺麗に並べて……よし、完成です! 具材ごとに丸かったり三角だったりと、見た目でわかりやすいように形を揃えているのが本日の映えポイントです!
「手の空いた人は適当に食べてってー」
今日は曜日的に何かと慌ただしい日なので、簡単に持って食べれて種類も豊富なおむすびなのです。
「おっ、綺麗にできてるじゃない。偉い偉い」
と、ちょうど通りがかった茶色の髪と目の女性──ここ宿里木亭の女将さんが綺麗にできたおむすびを見て、わたしの頭を撫でてくれました。
「えへへー」
「しっかしあんたもまあいろいろと作るけど、一体どこで覚えてくるの?」
「えっ」
どこ……? ……どこというか前世の知識というか…………しいていうなら地球の日本っていう国ですけど「知ってます? 実はこことは違う世界があって、そこの日本という国にはおいしい料理がたっくさんあるんですよ〜♪」なんて言った日には頭のおかしい子認定待ったなしじゃないですか! それでなくてもわたし「発想が柔軟な子(オブラートな表現)」扱いなんですからそんな発言をしたら教会に担ぎ込まれて治療かお祓いコース確定じゃないですか! やだ! お金がもったいない!(そこじゃない) というかわたし前世のこととか誰にも言ってないですし言うつもりもないですからね!(早口)
えっちょっ待っえええええええええええええええっと……。
「…………本で?」
「あんた見かけによらず、読書家だもんねぇ」
言い方ァ! それに元日本人としては娯楽の少ないこの世界では、読書は貴重な楽しみなんですよ! でもまあ、女将さんがそれで納得してくれるなら……。
「でも料理の本なんて、どこで読んだの?」
「えっ」
どこ……? ……どこというか前世の知識というか…………しいていうなら地球の日本っていう国ですけど「知ってます? 実はこことは違う世界があって、そこの日本という国には料理以外にも本がたっくさんあるんですよ〜♪ それ以外にもスマホという便利な道具があってですね、それで調べたいことをポチポチするだけで、簡単に探せたりするんですよ〜♪」なんて言った日には天才か頭のアレな子判定待ったなしじゃないですか! それでなくてもわたし「知識が無駄に豊富な子(オブラートな表現)」扱いなんですからそんな発言をしたら教会に担ぎ込まれて治療かお祓いコース確定じゃないですか! やだ! 時間がもったいない!(そこじゃない) というかわたし前世のこととか誰にも言ってないですし言うつもりもないですからね!(超早口)
えっちょっ待っえええええええええええええええっと……。
「…………教会で?」
「あんた見かけによらず、信心深いもんねぇ」
言い方ぁっ! あとわたし教会にはたまに行ってますけど、友達に会いにだったり図書室目当てだったりで、特に信仰心が強い訳ではありませんよ? でもまあ、女将さんがそれで納得してくれるなら……。
「ところでこのおむすびって、どこら辺の料理なの?」
「えっ?」
どこ……? ……どこというか前世の世界というか…………しいて言わなくても地球の日本っていう国ですけど「知ってます? 実はこことは違う世界があって、そこの日本という国にはおむすび以外にも、和食っていうおいしい料理がたっくさんあるんですよ〜♪ でも確かに、日本食といえばおむすびですけど、改めてどこら辺の料理? って問われると難しいですね……。今度スマホで調べておきますね〜♪」なんて言った日には神の使いか悪魔憑きか診断待ったなしじゃないですか! それでなくてもわたし「見たこともないような料理を作る子&聞いたこともないような曲を口ずさんでる子(自業自得&オブラートな表現)」扱いなんですからそんな発言をしたら教会に護衛という名の監視付きで運び込まれて偉い神官様の鑑定コース確定じゃないですか! やだ! 着て行く服が無い!(そこじゃない) というかわたし前世のこととか誰にも言ってないですし言うつもりもないですからね!(超々早口)
えっちょっ待っえええええええええええええええっと……。
…………何も思い浮かばない!
えっちょっ待っど、どどどどうするどうしよう……!
こちらの事情を知らない、純粋な疑問を口にしただけの女将さんの、のほほん、とした顔を見ながら、チートも無ければ天才でもない頭を必死にフル回転させます!
ななな、何か言わないと……!
「ああそりゃ、ドローウィン領の料理だな」
と、絶賛大ピンチ中だったわたしの前にひょっこりと現れた、焦げ茶色の髪と目をした男性──料理長であるわたしのお父さんが、そう説明してくれました。やだ、格好いい……!(あくまで個人の感想です)
ドローウィン辺境伯領……確か、この国の南東の方にある、海に面した肥沃な土地を持つ大領地……だったはず。……そういえば、お米や海苔もそこで作られているって聞いたことがあります。
「ほんと、そういう変なことを知ってるのは、似た者親子よねぇ」
と、わたし達親子を微笑ましいものでも見るかのように、そう朗らかに話す女将さん。
「ほっとけ」
「あははー」
お父さんは実姉である女将さんのその言葉に、ぶっきらぼうにそう答えますが、心理的には崖っぷちも崖っぷちだった転生者であるわたしは、心の中で、思いっっっっっっきり、息を吐き出しました。
た、助かったぁぁぁぁ…………(大汗)。
情報社会に生きる現代人の皆様には今更言うまでもないでしょうが、もしも異世界転生した際には、情報の取り扱いには、くれぐれも、充〜分に、気をつけてくださいね♪
異世界おむすび事情 〜転生者はつらいよ〜 明里 和樹 @akenosato
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