第29話 刹那の風景3:表紙イメージ短編:夜陰

【リヴァイル】


 夜何かが動く気配を感じて目を開ける。周りを見渡し確認すると、アルトとサイラスは眠っていたのだが、セツナがいない。どこにいったのかとその気配を探ると、どうやら洞窟の外にいるようだ。


 こんな夜更けに何をしているのか気になり、気配を消して移動する。わざわざ気配を消したというのに、この男はたやすく私を見つけ声をかけてきた。


「あれ? 起こしてしまいましたか?」

「……こんなところで何をしている?」

「寝付けなかったので、お酒を飲んでいました。リヴァイルさんも飲みますか?」


 飲むと口に出しかけるがやめた。


「いらん」

「弟と親睦を深めようと思わないんですか?」


 私の思考を読んだかのようないらえに、内心で舌打ちをした。


「お前と親睦を深める理由がない」

「そうですか」


 セツナはそれ以上何もいうことなく私から視線を外し、どこかを見つめながら酒を口に含んでいた。その方向に何かあるのかと目をこらして見るが何も見当たらない。そしてふと……ひらめくように私の脳裏に妹の姿が浮かんだ。


「……お前が見ている方向に妹がいるのだな」


 それは確信だった。


「……」


 なのにこの男は何も答えない。私がここから離れられなくなるかもしれないと、警戒しているのかもしれない。


「今更……妹に会いにいく愚かなことはしない。それが、妹の望みなのだろう?」

「竜族はみな、貴方達みたいに意思が強いのでしょうか」

「どういう意味だ」

「僕は、逢いにいきたくて仕方がない」

「……」


 ああそうか。明日別の大陸へと移動するから、こいつは一人で別れを惜しんでいたのか。妹の姿が見えずとも……その気配を感じなくとも、存在する方向をただ見つめ酒を飲みながら。


「お前は二度と会わなくてもいい」


 私の言葉にセツナがチラリとこちらを見たが、すぐに視線を元へ戻す。


「お兄さんはそろそろ寝たらどうですか? そのヘロヘロの魔力では竜国まで飛べませんよ」

「ヘロヘロではない。そして……お前に心配されるいわれはない。私はここに立っているだけだ」


 別に戻ってもよかったのだが、なんとなく立ち去りがたかった。もしかしたら、セツナにあいつの姿を重ねてしまった一瞬が、あったからかもしれない。


 セツナの背に背を向けるようにその場に座る。私のここから離れる気がないという意思表示に、セツナは軽くため息をついてからこちらを見ることなく、グラスを私の横に置いた。


「竜水です」


 竜水ならばと思い飲んでいるとセツナが「いつか酒を酌み交わせるといいですね」と宣った。私の答えなど知っているだろうにと、鼻で笑いながらそれでもあえて答えてやる。


「お前が妹と別れたときに酌み交わしてやろう」

「……」


 それからは時々会話を交わし、時折憎まれ口を利きながら、私達は朝焼けが訪れるまでの短くない時間を過ごしたのだった……。


-End-


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『刹那の風景(書籍関連の短編等)』 緑青・薄浅黄 @rokusyou-usuasagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ