会社の部下と飲んでる時に、みんなが馬鹿にしてる奴を馬鹿にしたら……?

@HasumiChouji

会社の部下と飲んでる時に、みんなが馬鹿にしてる奴を馬鹿にしたら……?

「あのさぁ、俺、前々から怪しいと思ってたんだよね」

 俺が課長をやってる部署に新人が配属されたんで、居酒屋で新人歓迎の飲み会をやる事になった。

 部下の顔に浮かんでるにこやかな表情は……多分、愛想笑いだろう。

 でも、酒が回ってるせいか、そんな事は、あんまり気にならない。

「ああ、そうですよね」

「若い連中は……あいつに騙されてたのが多いんだろ」

 そうだ……今週、ウチの部署に配属された連中が入社し、新人教育が始まった頃には、我が世の春を謳歌してた、あの「論破の帝王」と渾名されてる有名人だ。

 ほんのちょっとしたスキャンダルが元で、桜の花が散る頃には奴の人生の春も終りを告げ、気付いた時には、嘲笑の対象だ。

「まぁ……まぁ……その……今にして思えば、何で、あんなのを信じてたのか……」

 新人の一人がそう言った。

「ああ、そうだよ。あの『論破の帝王』の論破なんて、俺は最初からTV局のやらせだと思ってたよ。ほら……プロレスと同じ……」

 ぞわり……。

 何だ?

 この嫌な気配は?

 殺気?

「プロレスと同じだよ」

 自分自身に気のせいだとわからせる為に、そう言った次の瞬間……また、嫌な……気配がした。


「じゃあ、後は、若手だけで好きにやってくれ。年寄は、そろそろ退散するよ」

 そう言って、万札を何枚か幹事役の部下に渡して、先に店を出ようとすると……。

 ガタっ……。

 ガタっ……。

 ガタっ……。

 ガタっ……。

 何故か……背後から、誰かが立上るような音。

 嫌な予感が膨らむ。

 何だ?

 まさか……ネットでは誰でも馬鹿にするようになった……あの零落おちぶれまくった「論破の帝王」の狂信者どもが、同じ居酒屋に居たのか?

 店を出ても、背後からは……複数人の足音。

 怖い。

 振り向くのが怖い。

 走る。

 背後からの足音も走ってるモノに変る。

 走る。

 走る。

 走……く……くそ……もうヘバるなんて……。

 でも、背後から聞こえる足音は、まだ、元気だ。

 たすけ……あ、タクシーが居た。

「あ……あの……」

「どこまでですか?」

「と……とりあえず……一番近くの交番まで」


「ね……ねえ……」

「何でしょう?」

「あの……後ろから付いて来てる別のタクシーだけどさ……」

「ああ……あれですか?」

「あ……あの……この車を尾行してるなんて事は……」

「偶然じゃないですかね。そろそろ着きましたよ」

「あ……ありがとう……。あ……支払いは、このカードで」

「はい」

 俺はタクシーを下り……おい……交番の灯りが消えてる。

 警官は全員出払ってるようだ。

 そして……別のタクシーが止まり……。

 ドアが開く。

 ガタイの良い男が……4人。

 な……何なんだ一体?

「うわああああッ‼」

 本能的に危険を感じた俺は……鞄で、その1人を殴り付ける。

 効いてない。

 そいつの腹にパンチを入れる。

 グキャッ‼

「ひぎいいいッ‼」

 効いてない。

 鉄の塊でも撲ったような感じ……いや、そんな経験は無いが……喩えるなら……。

 相手は表情を全く変えず……ただ、俺の拳に激痛が走っただけだった。

「うわああああッ‼」

 全身の力を込めて……そいつに飛び蹴り。

 ごふんッ‼

 そいつは微動だにせず……ただ、飛び蹴りを放った俺の体が弾き返された。

 どてんッ‼

 自分の蹴りの反動で吹き飛んだ俺の体が地面に叩き付けられる。

「あの……」

「は……はいっ‼」

「謝って下さい」

「え……」

「謝って下さい」

「は……はい……すいません、酔って調子こいてました。ごめんなさい、赦して下さい」

「もう……あんな事を言いませんよね?」

「は……はい……もう2度と……」

 じょぼじょぼじょぼ〜……。

 俺は恐怖のあまり小便を垂れ流していた。

「もう2度と『論破の帝王』の事は批判しませ……」

 ごおッ……。

 男達の体から殺気が噴出する。

「あ……あ……あ……」

「違うだろ……」

 男の声は静かだったが……火傷をしそうな程の怒りに満ちていた……。

「あ……あの……一体……」

「おい、おっさん」

「はいッ‼」

‼」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 えっ?

 そっちだったの?

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