第1話 旅立ち


ピピピピピピ---!

と、そこに警告音が鳴る。

ディスプレイ切り替わって、接近する物体をモニターする画面になる。

「来た!!」

画面に向かって叫ぶ。

「貨物船かな?」

答える機械音

「可能性、60パーセントです。」

少女は、走って近くの木の影に姿を消す。

木の影?

どうもそこに居住スペースがあるらしい。巧妙にカモフラージュされている、

大きさ500mくらいはある円形ドームだ。

1分もしないうちに、少女は再び、木の影から出た来た。

薄汚れた感じの鼠色のマントをはおって、同じように薄汚れた感じのリュックサックを背負い、手にはホバーサイクルを持っている。

手慣れた仕種で、ホバーサイクルを地面に立てると、エンジン音を響かせる。

「二時間で戻る。準備して待ってて。」

手伝いロボットに言う。答える機械音。

「了解。」

ホバーサイクルにすべるように乗ると、大きく土煙をあげ、発進する。



国際空港。

とは言っても、だだっ広い土地に、倉庫が二、三あって、あとは滑走路があるだけだ。見晴らしも効く。

少女は倉庫のみえる茂みまでくると、手早くホバーサイクルを隠す。リュックから、双眼鏡をとりだすと、自分も茂みに身をかくしながら、様子を窺う。



チン。

電子レンジが、出来上がりを知らせる。ダッと男はレンジ前にくると、皿を取り出そうする。

「あちっ。」

あわてて、キッチンミトンをして、皿を丁寧に取り出して、テーブルにおく。

あたりを見回して、フォークを見つけて手に取ると、自身もテーブルにつく。

熱い皿にふーふーと息を吹きかけさましながら、焼いたじゃがいもにかぶりつく。

不味い。

失望の色をにじませながら、それでも男はゆっくりと租借して、飲み込む。もう一口、食べようと口元までもってくるが、じっと焼かれたじゃがいもを見つめたあと、がっくりと大きく肩を落とした。

はあー、ため息が出る。

フォークをおいて、立ち上がる。

 ここは、宇宙船内のキッチン。

乱雑にものが、散乱している。テーブルの上は、いま男が食べようとした皿のほかにも、二、三、料理されたらしい皿が置きっぱなしになっているが、こちらは、すでに腐っているか、干からびている。炊飯器は蓋が開いたままになって、中は黒焦げ状態だ。戸棚の中の食器類は整理されて、使われている様子はない。

木箱には、たくさんのじゃがいも。米、と書かれたケースもある。小麦粉。砂糖。一通りの食材は、装備されているようだ。

 男。年の頃は、30代くらいか。やつれてはいるが、健康そうだ。赤褐色の髪。日焼けした肌。がっしりして見えるが、中肉中背、平均的な体形をしている。

 力なく、食材棚を開けると、栄養食パックをひとつ取り出す。ゼリー飲料形式の、宇宙食だ。椅子まで戻りながら、パックの口をあけるとそのまま一息に飲む。椅子までもどると、座ることなく、その横にあったゴミ箱へ、飲み終わったパックを投げ込んで、さっさとキッチンを出ていく。

 ゴミ箱には、同じ栄養食パックが山のように捨てられている。


 コックピットに戻ると、何やら低い警告音とともに、赤いランプが点滅している。オイル切れらしい。男は、やれやれといった感じで、頭をかく。正面モニターには、前方の宇宙が大きく映し出され、自動飛行は、順調だ。操縦席は二席あって、後方には指揮官席。小型輸送船の平均的な作りになっている。乗組員はいない。男ひとりだ。男は立ったまま、宇宙船を停止させると、くるっと踵を返して、エンジンルームへ向かった。

 


 エンジンルーム。

 エンジンのローターの回転具合を手で触って確かめたあと、男は満足そうに微笑んだ。オイルの設置場所までくると、パネルを開けて、無くなっているオイルケースを抜き取って、手にもっていたオイルケースと交換する。

 そして、再起動させる。

ぼういぃーーんとエンジン音が響く。男はしばしその音に耳をすませて、恍惚の表情を浮かべた。

 

 ーー

俺は、エンジニアだ。いや、だったというべきか。まあ、この際どっちでもいい。目が覚めたら、こと座のクリソベリルのゴミ処理場にいた。職員のおっさんが、興味をもって、俺の睡眠カプセルを開けてくれなかったら、俺はお陀仏だった。有難い。

 睡眠カプセル。そう、俺はコールドスリパーだ。30年間、眠っていたらしい。

おかげで、このていたらくだ。全くなんだって俺は、コールドスリープなんてものに、入っちまったのか? 人生に失望したのか? してたかも。未来に希望をたくしたのか? どうかな?

 酒に酔って勢いで、申し込んじまったのか? う~ん、やばい。俺ならやりそう。失恋して、たいして飲めもしない酒をかっくらったとこまでは、覚えてる。その先がな、記憶が曖昧なんだよな・・・。

 まあともかく、エンジンはいいんだ。エンジンは。そのために俺が扱える旧式を選んでいるわけだし。航行も順調だ。ゴミ処理場のおっちゃん達の助けもあって、輸送の仕事も始められた。問題は雑用だ。

「やっぱ、人を雇うかなぁ~」

声にでる。

そこまでの利益をな~、あげられてないんだよなぁ~。


コックピットに再び戻ると、新たな警告音とランプの点滅。深いため息のあと、

警告ランプの原因を調べる。今度は船体のようだ。正面モニターが切り替わって、外れそうになっている外装が映し出される。やれやれ。


―ーー

積荷は香辛料だが、たいして日持ちはしない。



 茂みに身をひそめて、倉庫内の様子を窺う少女。

倉庫より、ざっと50mくらい手前。入口にシャッターなどは付けられていない

開け放しの建物。少女の位置からは、宇宙船らしき物体の後方部分が見えた。

双眼鏡のカウンターゲージによると、貨物船の可能性、80パーセントと出ている。これで持ち主や船籍が、現在戦争をやっているところじゃなければ、行けそうだ。「よし!」少女はひとりごちた。双眼鏡をバックに戻すと、バックも茂みに隠してから、少女は倉庫まで走った。


 倉庫の入口につくと、荒い息を整えながら、中の様子を窺う。

人がいる!

 内部は、1キロ平方メートルくらいのほば何もない、敷地だ。中央に止められた宇宙船は、やはり貨物船のようだった。かなり旧式のようだ。人物は、船体ハッチを開けて、出た来たばかりのようだった。だだっ広い倉庫と入口から望む景色を見ている。

少女はすぐに、頭をひっこめた。気楽に挨拶に来た、というわけでは、なさそうだ。身体を入り口壁に隠した状態で、慎重に、時計を垂直にかざして、船体スキャンする。SD93年型、冥王星産貨物宇宙船500トナン。船体の状態、航行が可能。外装に問題あり。と表示された。

 そして、生体反応、一体。人類。

軽く息を吸って、また身体を入口外側に戻すと、壁を背に腰を降ろす。スキャナーの掲示を確認する。ロボットの数など、船体の性能診断に移った。さほどたいした装備はつけていない。これなら、問題なさそうだと判断した。あとは行先だ。密航できたとしても、戻れなくなるような、外系宇宙に連れて行かれても困る。

 少女は引き続き、人物の行動を観察した。外装の修理のために、立ち寄ったようだ。整備ロボットはいないのかな? 補給は? 積荷はなんだろう?


人物は、修理の必要な外装箇所まで、見に行くようで、船体を眺めながら、歩き始めた。人物が視界から消えるのを見計らって、少女は船体に近づく。ハッチは開け放たれたままだ。誰もいないと思っているのだろう。中に入るのは、簡単だった。

 船内は汚かった。照明もほとんどつけていないので、暗くもあった。

 まずは、貨物室だな。メインコンピューターにアクセスできれば、しめたものだ。船体の作りは、一般的なものだったので、あたりをつけて、そちらへ向かう。

予想通りのところに貨物室はあった。かなり広い。この大きさの宇宙船にしては、かなりのスペースを貨物室に当てている作りだ。貨物室の中も雑然としていて、こわれた木箱や、古くて使えないコンテナなどが、整理されずに置かれてあった。そこに、10個くらいの真新しい感じのコンテナが積まれてあった。

積荷はこれのようだ。まっすぐコンテナまで歩いてくると、コンテナの表示を確認する。見たことのない言語だった。少女は少し考えて、パネルを操作した。

こうしたものは、標準語の記載もあるはず、と思ったのだ。あった。香辛料、

生姜。配達先は、グオンタール星系第7惑星。

 

ーー

グオンタール星系は、ここからだと結構遠い。このボロ船(失礼)だと、生姜の鮮度期間で間に合うのだろうか。ああ、それは余計なことだった。

グオンタールに行くのなら、どこかで、補給をとるはず。スペースイレブンあたりに寄るんじゃないだろうか。いいぞ! いける!。

 

少女は密航の計画を実行することに決めた。



男は第二貨物室に来ていた。またこれを使うか、と考えて、大型の修理ロボットを操作する。10mほどのアームのついたショベルカーに近い形のロボットだ。人が乗り込めるように、作られていた。男は乗り込んで、操作する。

ロボットは、格納庫の中央で、床板をはがしはじめた。

見ると、もうずいぶんと床板が剝がされていて、悲惨な状況だ。新しい表面鋼板は買えない。現状はこれでなんとか凌ぐしかない。ロボットは器用に鋼鉄を切り離すと、それを持ち上げて移動する。外装の剥がれたところまで来ると、修理を始めた。


2時間後。

少女は、箱型お手伝いロボット「ナギ」を連れて、船内に侵入ことに、成功していた。格納庫の煩雑になったところに、ナギを隠すと、自分はコンテナの中に潜り込んだ。


ーーいよいよだ!

ここを出ようと決めてから、ずいぶんとかかってしまったような気がする。

目を閉じると、優しかった姉の笑顔が浮かぶ。「ここを出て、母を探しなさい」と姉は言った。コロニーにもう生存者はいない。姉も半年前に、亡くなった。

軽い振動があって、船体が離陸したらしいことがわかる。

姉の笑顔に包まれて、少女は眠りに落ちた。


ここから、少女サードの冒険の旅が始まった。





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オレが地球を救う! @Chuson

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