こんな新入社員は嫌だ
薮坂
コント「新入社員」
「──はぁ、新年度はやっぱり忙しいな。管理職になってから毎年目の回る忙しさだ。タスク管理、スケジュール管理、部下の管理、新人研修の管理……。こりゃ自分の体調管理なんて出来そうにねーなぁ」
「どうしたんすか、お疲れの顔ですねぇ。なんか嫌なことでもあったんすかァ?」
「……いや君ね、すげぇフレンドリーに話しかけてくれて嬉しいけどさ。それにどっかで見たことあるなーって思ったけど君、ウチに入ってまだ一ヶ月も経ってない新入社員だよね? 俺、一応課長なんだけどさ」
「ええっ⁉︎ そうなんすか⁉︎」
「そうなんだよ、課長なんだよ。ちなみに誰だと思ってたのかなぁ?」
「いやそれはわかりますよ課長! お世話になってんすから! 違いますよ僕はね、この会社に入ってもう一年くらい経ってると思ってたんですよ!」
「そっち⁉︎ 凄い言い訳きたよコレ!」
「なのにまだ一ヶ月も経ってなかったなんて。よほど僕が濃い経験してるからすかね? いやぁ、驚きですねぇ!」
「驚きってそれ絶対俺のセリフだよね? なに君、精神と時の部屋にでもいたの?」
「いや、僕がさっきまでいたのは社長の部屋っすよ?」
「何してんだよ君ィ! いやお前ェ! 社長室に用事なんてねぇだろ!」
「いやぁほら、僕の優秀さを社長に直で伝えようと思いまして。要はアピール、社内営業っすよ! 社長、股でもお揉みしましょうかー? ってね!」
「肩だよ肩! 揉んでいいのは肩ァ! お前とんでもねぇとこ揉もうとしたな! ……いや待て、まさか揉んでねぇだろうな⁉︎」
「揉みましたよ?」
「揉んだのかよ⁉︎」
「おおイイわ次は首な! って喜んで貰えました!」
「多分『もういいわ次はクビな!』って言われたんだと思うなぁ! 優しい社長に感謝しろ! ていうかお前すげぇ度胸だな! 規格外新人だわ!」
「えっ? 企画がイイ新人、ですか? 参ったなこりゃ、僕は営業課がよかったんですけどね! でも企画課もアリっちゃアリかな?」
「規格外だよ規格外! 誰がお前に企画任すか! 絶対ナシだよ! ていうかお前まだ研修中だろ? こんなとこで何してんだよ!」
「いやぁ、あのビジネスマナー講座とかマジ意味ねーなと思いまして。で、抜け出して来たんすよ!」
「何してんのお前⁉︎ そのサムアップの『いいね!』ポーズやめろ! よくねぇんだよ!」
「大丈夫っす、なんか言われたら『あ、それ大学で履修済みっす』って言いますから!」
「さらに何言ってんのお前⁉︎ 言い訳にもなってねぇよ! 何が履修だ、学生気分全然抜けてねぇじゃねーか!」
「鮭とばですけど課長、学生のように若く柔軟な考えこそ、これからの社に必要なことじゃないすかね?」
「お言葉だろが! 何が鮭とばだよ! 酒の肴のハナシしてんなよ、まだ定時来てねぇよ!」
「鮭は魚ですよ? てにをは変じゃないっすか課長? ちなみに鮭って実は白身魚なんすよ、知ってました?」
「えっ、知らなかったなーって言うとでも思ったのか! とにかく今すぐマナー講座に戻れ!」
「お断りします! アレは意味ないっすよホントに。なんすかあのまどろっこしい名刺交換のヤツ。あんなの『ドロー! オレの名刺を攻撃表示!』でいいじゃないすか?」
「取引先とカードデュエルしてどうすんの⁉︎」
「あ、そうだ! 僕の名刺の攻撃力は5000でよろしくっす!」
「名刺に攻撃力表示なんてあるか! いいから戻れ、まだ間に合うだろ!」
「いやだからね、マナー講座って意味わかんなくないすか? 了解は失礼とか言うけど辞書にそんなの載ってないんすよ? 了解がダメなら何て言えばいいんすか!」
「いや他にあるだろ! 承りましたとか畏まりましたとかさぁ! なんでお前がキレてんだよ⁉︎ もういいよ、とにかくお前とマナー談義する気はねぇから! な? 早く戻れマジで!」
「でもね、電話を取る時は利き手でないほうで、とかも言うんすよ。利き手でメモ取れるようにって。でもおかしくないすか? ヘッドセットつけてたらキーボード両手で打てますよね。で、
「いやまぁ確かにそうだけどさぁ! マナー講座、俺も思うところはあるよ? でもコレ仕事だからな⁉︎」
「それにね、電話中にもしデュエリストがバトルしかけて来ても両手で対応できるじゃないすか。『ドロー、俺のターン! トラップカードを即時発動!』って。だからアレを受ける意味はないと思います!」
「どんなシチュエーションだよ! 言い訳が言い訳になってねぇんだよ! カードデュエルから離れろお前!」
「いや、挑まれた戦いから逃げ出すワケにはいかないんすよ。プライベートでの僕は、全勝無敗のデュエリストだから」
「知らねぇよお前のプライベートなんて! プライベートで何しようが自由だけどな、仕事場では仕事しろ! いいか、今のお前の仕事は研修受けることだよ! まだ仕事ひとつもできねーんだからさ、わかるよな?」
「いえ、その時間を使って一仕事終えたとこですよ! 社内環境の改善、それに着手しました!」
「は? 何言ってんのお前?」
「さっき、ウォーターサーバーの営業が社に飛び込みで来てまして。なんか物凄く効果のある一酸化二水素を多量に含む水らしくて、集中力向上やリラックス効果もあるとのことでした! 既に10台契約済み、しかも大幅に値下げさせましたよ!」
「いやいや何してんのお前⁉︎ 一酸化二水素を含む水ってそれ水だよ水ゥ! 含んでねぇよ、それ100%なんだよ‼︎ それにお前個人の判断で10台も置いてんじゃねぇ! 持って帰れ!」
「でも会社の物品を個人が持ち帰るのはマズくないすか? 横領になりません?」
「横領? お前がお前の名前で契約したんだろ?」
「いえ? 契約は会社名義ですよ? そこにデカい会社の印鑑あったんで、ラッキー承認省けるなって思って」
「お前それ会社の丸印じゃねぇかアホォ! もうマナー講座なんて出てる場合じゃねぇぞ、今すぐクーリングオフしてこい!」
「ツーリング・岐阜? バイクかぁ!」
「一言も言ってねぇよ! 何でバイクで岐阜行くんだよ! いや楽しそうだけどな⁉︎ 美味いもん食べられそうだしなァ!」
「五平餅とか飛騨牛とか? いやぁすげー楽しみっすね!」
「だから行かねぇつってんだろ! クーリングオフだ、クーリングオフ!」
「ボーリング・押忍?」
「なんだよそれはァ! ストライク取ったらみんなで『押忍!』とでも言うのか! 空手部か! クーリング・オフだ! キャンセルだよキャンセル‼︎」
「いやスイマセン、課長とフォーリング・ラブはちょっと。僕はノーマルなんすよ」
「俺もノーマルだよ‼︎ なんでお前とオフィスラブしねーといけねんだよ‼︎」
「まぁとにかく、キャンセルすりゃあいいんすね? わかりました。先方には『課長が単独、社に反旗を翻した』って言い訳しときますよ」
「翻してんのはお前だよ! 言い訳になってねんだよさっきからよォ! もういいよ、さっさと電話しろ!」
「ガッテン承知ィ!」
「お前マジふざけてるだろ! 早くしろアホが! あとお前、社への言い訳考えとけよ! ちゃんとしたヤツだぞ!」
「大丈夫っす、僕は言い訳のプロっすから!」
「プロ? 一体なに言う気だお前⁉︎」
「そもそも昨日の記憶がありません!」
「契約したのは今日だろが! いいねポーズやめろ、意味ねぇんだよその言い訳ェ!」
「でもきっと課長もこの言葉使うと思うっすよ?」
「使わねぇよアホか! ていうかお前よく採用されたな! 誰だよお前を採用したヤツは! お前の人事シート見てやる……ん⁉︎ 『推薦者:人事第二課長』⁉︎ って俺だァ──ッ‼︎ マジで記憶にないんだが!」
「ほらね? 言ったっしょ?」
「やべぇ、マジやべぇ! 言い訳考えないといけないのは俺の方だったよ‼︎」
【終劇】
こんな新入社員は嫌だ 薮坂 @yabusaka
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