いいわけしない男

桃もちみいか(天音葵葉)

夫婦げんかした俺に、夫婦円満のアドバイス

 ここは、俺の行きつけの居酒屋『呑気のんき』古びてはいるがたいへん居心地がいい店である。


 俺は、同僚の竹割たけわりさんと会社帰りの癒やしを求めて呑みに来ている。


 同僚の竹割さんは『いいわけ』をしないことで有名だ。


 バレないとたかくくって浮気をしたがまんまとバレて、かみさんにこっぴどく叱られた情けない俺。


「あなたはいいわけばっかり! だから出世しないのよ!」と罵倒された。


 そこで反省をした俺は、おしどり夫婦としても社内で有名な竹割さんに夫婦円満のコツを聞いてみた。


 彼の奥さんは我が社の社長の御令嬢だ。


「竹割さんはさあ〜、いいわけをしないってぇ、有名じゃないれすかあ」

「君、呑み過ぎだよ。なんかあったの?」


 俺は呂律の回らない口で一生懸命に、夫婦げんかの経緯いきさつを話した。


「夫婦円満の秘訣ねぇ。まあ、俺は妻にはいいわけをしないって決めてるんだ」

「もし相手が間違ってて非があるぅのにぃもぉっ……ヒック、自分が悪いって謝ったりするんれすかあ?」

「謝らんよ? そういう時は正当にきちんと誠実に事実の話をする」

「相手が怒ってきたらあ?」

「こっちの無実を信じて貰えるよう証拠を用意する。喧嘩口調はだめだよ、穏やかに。それが鉄則だ。怒りは怒りを生み負の連鎖が起こるだけだからね」

「へぇ〜、そうれすかあぁ……ヒック。勉強にぃなりまぁした〜ぁ」


 俺はさらにジョッキに残ってたビールをぐいっとあおるようにして、一気に飲み干した。


「で、竹割さん。夫婦円満のコツって〜なんれしたっけぇ〜?」

「だからね、いいわけをしないのが『いいわけ』だ」

「ブハアッ! まさか駄洒落が言いたかっただけじゃにゃいれす?」

「まあな。一番のコツはね、いいわけをしてしまう様なことをしないのが『いいわけ』だよ」

「ブハアッ! 骨身にぃしみましったあ……ヒック。効きますね。それが一番れすね〜」


 竹割さんのつまらない駄洒落も酒の席では吹くほど面白い。

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