筋肉殺人事件ᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ

無月弟(無月蒼)

第1話

 あたしは敏腕女刑事の、湯出ゆで玉子たまこ

 今日は本屋の主人が密室で殺された事件の、捜査に来ている。


 現場となったのは、本屋兼自宅の一室。

 被害者は昨夜、家に侵入してきた何者かによって殺害されたらしい。

 早速遺体を見たけど……うげ、酷い有り様じゃないか。頭がぐちゃぐちゃにされてる。

 どうやら犯人は、被害者に強い殺意を抱いていたみたい……あれ?


 ふと目に入ったのは、遺体がが大事そうに抱えている何か。

 あれはぬいぐるみだ。たしか小説投稿サイトカクヨムのマスコットキャラクター、トリさんだっけ。

 けど、どうしてそんなものを抱えて──ピコーン!


 はっ! 今唐突に閃いた!


「おい、三糸みいとくんはいるか!」

「はい、何でしょうか?」


 あたしは部下の平刑事、三糸くんを呼びつけて、ゴニョゴニョと指示を出した。


「わかりました。では少し調べてみます」


 急いで部屋を出て行く三糸くん。

 よーし、見てろよ犯人。


 というわけでそれから少しして、警察署の取調室にはあたしと三糸くん。

 そして一人のおとこがいた。


「本屋殺害の犯人はあなたですね。禁肉きんにくすぐるさん」


 三糸くんに頼んでつれてきてもらった男。

 それは被害者と同じ町に住んでいる、こんな感じの筋肉ムキムキのマッチョな男性だった

 →ᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ


「刑事さん、私は殺してなんていませんよ」

「ハイハイ落ち着いて。湯出警部、そう言うからには、なにか根拠があるんでるよね?」


 禁肉さんが顔をしかめ、三糸くんが聞いてくるので、あたしは推理を発表する。


「被害者が大事に抱えていたぬいぐるみがあったじゃないか。あれはダイイングメッセージだったのさ?」

「ダイイングメッセージって、あれが!? けど、どういう意味なんですか?」

「オーケー三糸くん。まずあれは、トリのぬいぐるみだった。トリと言えば鶏肉。鶏肉と言えばささみ。ささみと言えば、筋肉を作るのに適した食材じゃないか。すなわち、町一番のムキムキ男、禁肉すぐるさんの事を指していたのだ!」

「出た、湯出警部の湯出理論! そんなの、こじつけもいいとこじゃないですか!」


 三糸くんはそう言ったけど。禁肉さんを見てごらん。


「た、確かに。なんて完璧で隙の無い推理なんだ」


 ほら、納得してるみたいだから、話を続けるぞ。


「しかもね禁肉さん。昨夜犯行のあったとされる時刻に、あなたが外出したのは確認済みなんだよ。家を出た後、本屋に行って店主を殺したんじゃないのかい?」

「ま、待ってくれ。確かに私は昨夜家を出たけど、そんな長い時間じゃない。犯行は不可能だ」


 まあ確かに。

 実は禁肉すぐるさんの家と現場の本屋は、川を挟んだ向かい同士。

 しかし直線距離としては近くても、川を渡るためには離れた所にある橋まで迂回しなければならず、そうなるとかなり時間が掛かってしまう。


「夜の散歩で、殺人なんて起きちゃいない。俺は近くのコンビニ、セブンまで買い物に行っただけなのに犯人扱いされるなんて。とんだアンラッキー7だぜ」

「くくく。そうやってしらを切ってられるのも今のうちだよ。禁肉さん、あなた、ずいぶんいい足してるじゃないの。まるで陸上選手みたいな、いい筋肉だ。この足なら、さぞかし長い距離を跳躍できるだろうねえ」


 あたしは禁肉さんの引き締まった足を、マジマジと見つめる。そして。


「あなたはその足の自慢の筋肉を活かして、川をぽーんと飛び越えたんだ! これなら短い時間でも、現場と自宅の往復が可能だ!」

「警部、その推理はいくらなんでも無茶苦茶すぎますって! いくら鍛えていても、そんな事できるわけが──」


 ストップをかけたはずの、三糸くんの言葉が途切れる。

 何故なら禁肉さんが動揺を絵に描いたような、こんな顔をしてたからだ

 →((゚□゚;))


 まったく、分かりやすい男だよ。


「で、ででで、でも待ってください刑事さん。現場はたしか、密室だったんですよね?」

「正確には、ほぼ密室だけどね。部屋には鍵が掛かっていたけど、窓は開いていた。まあその窓には鉄の格子が付けられていて、普通なら人は出入りできないけど」

「ほら、それじゃあ密室と変わらないじゃないですか。どうやって私が殺したって言うんです?」

「それはね……禁肉さん、あなた足だけでなく、腕もいい筋肉してるじゃないか」


 禁肉さんのムキムキの、上腕二頭筋に触れる。


「あなたはこの自慢の筋肉を使って、鉄格子をひん曲げた! そして窓から中に入り、被害者を殺害。後は来た時と同じように外に出ると、もう一度鉄格子をひん曲げて元に戻した。違うかい?」

「そんな、私の完璧な計画がバレるなんて」


 ガックリと膝をつく禁肉。

 横では三糸くんが、「無茶苦茶だ」って唖然としている。


「確かに私は、彼を殺しました。けど、悪いのはアイツだ。アイツが俺の、大事にしていたプロテインを勝手に飲んだりするから……」


 泣き崩れる禁肉。

 けどいくら言い訳をしたって、人を殺していい理由にはならないよ。


 何はともあれ、これで事件は無事解決。

 禁肉すぐるは留置所送りとなり、あたしと三糸くんは休憩室で一休み。

 ふぅ~、コーヒーが旨い。


「さすが湯出玉子警部の湯出理論。相変わらず滅茶苦茶でしたね。けど、禁肉が自供したのはラッキーでしたね。あのとち狂った推理、何一つ証拠がありませんでしたもの。自供がなければ、逮捕は難しかったですよ」


 なんて事を言う三糸くんだったけど、あたしはニヤリと笑う。


「自供したのも、全てあたしの計算通りさ。何せ奴は、脳ミソまで筋肉。証拠なんて概念はそもそも頭に無いはずだから、推理を突き付けたら白状するってふんでたよ」


 見よこの完璧な計画。

 湯出玉子警部の湯出理論、湯出推理は、今日も切れ切れなのである!



  完?




 ◇◆◇◆



「あのー、湯出警部。これってKACのお題『いいわけ』小説ですよね?」

「そうだとも。禁肉が自白した後、見事にいいわけしてたね。完璧な『いいわけ』小説だよ」

「どこがですか! トリックは筋肉を駆使したものだし、作品タイトルは『筋肉殺人事件ᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ』だし、どちらかと言えば『筋肉』小説じゃないですか!」

「な、何を言っているんだい。それじゃ君は、本当はこのお話はお題『筋肉』の時に考えたもので、だけど書く時間がなかったから今回使い回したと、そう言いたいのかい? ち、違う。筋肉筋肉言ってるのは、ただの偶然で……誤解だ、話せばわかる」

「苦しすぎますよ! 下手な言い訳をしないでください!」

「ま、まあ良いじゃないか。こういう『いいわけ』小説があっても」

「良いわけあるかー!」



  今度こそ、完!



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筋肉殺人事件ᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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