うらはらな発車メロディ
地崎守 晶
「うらはらな発車メロディ」
僕が知らない曲をポップにアレンジした発車メロディ。ここ数年ですっかり覚えたものの、名前を調べたことはない。
発車メロディはただ、電車がこれからどこかへと連れて行ってくれるということだけが大事だったから。
このメロディを合図に僕を連れて行く先は、代わり映えのない職場だけれど。
小さいころから鉄道に憧れていた。『将来の夢』の作文には運転士と書いたものだ。
けれど自分の資質という現実はなかなか厳しく、今は大手鉄道グループから委託される書類管理事務作業に従事する派遣社員という立ち位置で働いている。
憧れ、夢見た世界とほんの僅かにしか関わらない仕事で糊口を凌いでいる自分が、たびたびどうしようもなく矮小に思える。
あの時、ああしていれば。もっと違う今があったのじゃないかと、そんな思いがよぎって、酒に頼らないと眠れない。
人と人の体と体が押し付けられる満員電車。憧れだけで駆けまわれた頃には知らなかった現実の中に閉じ込められる。
重い頭と沈む胸を抱えて、僕は今日も繰り返し明るい発車メロディを聞く。
目の前で、規則正しくドアが閉まる。窓の外の朝日を見ないで済むように、俯く。
うらはらな発車メロディ 地崎守 晶 @kararu11
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