いいわけのアルファ いいわけのオメガ

Shiromfly

アルファいいわけ、オメガいいわけ

 ふと思った。

 人類初のいいわけ、って何だろう?


 「だってぇ、蛇がぁ、食べていーよ、って言ったからだしぃ」

 というイヴちゃんの弁明は忘れて、ガチの人類史上のヤツ。


 言い訳には言葉が要る。うろ覚えだけど、言語の起源は、まだ狩猟が全ての時代、それまでウホウホ言ってるだけだった人類が、徐々に発声パターンによるコミュニケーションを拡張、充実させていったのが礎……みたいな感じのはずだ。


 そこで何らかの失敗に対し、合理的正当性を説明する必要に迫られた時、生まれたのが言い訳、だと定義できると考える。


 しかしそんなアカデミックな一般論はどうでもいい。

 ここでは実際はどんな感じだったのか、具体的な実例に想いを馳せたい。

 人類最初の言い訳が炸裂する瞬間を見たい!

 

 きっと、マンモス狩れなかったってことを、ぷんぷんの妻にどう説明して納得してもらうか、誤魔化すか、宥めすかすか。そんな旦那が苦し紛れに呻いたのが、きっと人類初の言い訳だ。


 吹き荒ぶ、氷河期真っ盛りのクッソ寒い風。

 マンモスハントに失敗した旦那の、帰途の足取りはとぼとぼと重い。


 ほら穴では大事な家族がマンモスのお肉を楽しみに待ってる訳ですよ。

 でも失敗しました。そしたら奥さんが激怒ですよ。育ち盛りの上の子はお腹を空かせてギャン泣きしてるし、生まれたばかりの赤ちゃんにあげるお乳のために栄養も取らなきゃいけない。稼ぎの悪いオスの惨めさは、全生物に共通する悲劇ですよ。


 天気が良くなかったから、体調が悪かったから、マンモスが見つからなかったから。様々な理由があるだろうけど、そこはともかく。


 手ぶらで帰れば怒られるわ泣かれるわで、テンションがた落ち。怒声が反響するほら穴の中は険悪な雰囲気でギスギス。そんな哀しみやストレスを、壁画に「こんな狩りをしたかったなァ……」という理想像を描くことで芸術性に変換、発露し、発散するしかない。現実に打ちのめされて嫌気が差してしまった男は二次元に逃げ込んでしまうもんね。なんてこった。アートの起源も暴いたなこれ。


 旦那の願いはただ一つ。愛する妻には、優しい笑顔で出迎えてほしい。慰めてほしい。「まあ、そんな理由なら仕方ないわね」って。なので相応しい事情と理由を考える。時には在りもしない理由で誤魔化しもしたであろう。嘘の起源でもある。


 そして一方、集落では、能力もないのにでけえマンモスを狩れると豪語して見栄を張ったり、マンモス狩れない奴にマウント取ってみたり、すげえマンモス狩った奴をもてはやして神格化したり、ちやほやされたい承認欲求がためにマンモスを狩ってみたり、現在の人類の行動原理のあれこれは、やっぱりマンモスの狩猟から始まっているんだね、という結論に回帰しました。



 と、これだけでは、大半が周知の事実であろうことを変にこねくり回してみただけで終わってしまうので。逆も考えてみる。


 人類最後の言い訳は何になるかな?

 誰かの『核のボタンを押す』言い訳じゃなければいいけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いいわけのアルファ いいわけのオメガ Shiromfly @Shiromfly2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ