光に憧れて【KAC20237 お題「いいわけ」】
蓮乗十互
光に憧れて
十五年前の中学時代。
「読書家としては同年代で人後に落ちぬつもりだが、まだ時が至らぬのだろう。しかしいつか
ダー子は人をフルネームで呼ぶ。今は新進気鋭の宗教学者として、メディアで活躍を見かけるようになった。
美奈は進学で京都に移り、そのまま就職・結婚した。民俗学の道を諦めた今も、泥蓮洞の都市伝説はずっと頭にこびりついていて、ネットに僅かに記されたいくつかの目撃譚を、繰り返し読み耽った。人の心の一瞬の揺らぎの中に差し込む光。それが泥蓮洞という存在に共通する印象だ。
あの日の問いに、今なら素直に答えられる。
私も
夫の海外出張を機に幼い息子の
泥蓮洞に出会えないのは、私が伝説を人間の想像力として理性的に捉えてしまうからかもしれない。言い訳のように美奈は思った。
京都に帰る日。隣家の幼馴染み・矢口
プラットホームには数人の先客がいた。お腹の大きな妻に寄り添う夫。祖母らしき人を抱きしめる若い女性。人生の数だけ、物語がある。私も私の物語を生きていくのだ。
やがて特急やくもがホームに滑り込み、ドアが開く。乗り込もうとした時、耳元で「また、おいでなさい」の声。振り仰ぐ彼女の目に、青空を漂泊する雲が映った。
光に憧れて【KAC20237 お題「いいわけ」】 蓮乗十互 @Renjo_Jugo
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