【短編】君の言い訳になろう。

保紫 奏杜

君の言い訳になろう。

 最近の君は、お風呂が長い。

 それに、髪を乾かしながら、片足ずつを上げたりしてる。

 そんな指摘は口に出してはしないけど、僕はそのくらいは気付いてる。


 そんな最近の君の、おやつは控えめ。

 我慢するのはしんどいだろうから、僕はちょっとばかり気を逸らしてあげる。


「今日は難易度高めの襲撃ミッションだから、お気に入りM.O.V.ムーブで手伝ってくれる?」

「あのロボットに乗るやつ? ウェーブ&ムーブだっけ」

「うん、君を斬り込み隊長に任命しよう!」

「うはは、任せて!」


 意気揚々とPCモニターの前に座り、君の右手はマウスに、左手はキーボードに。これならおやつは食べられないし、何より君の思考はすっかりと、敵をほふることに夢中だ。

 そうこうしているうちに寝る時間がやってきて、君は機を逃したとばかりにおやつを諦める。


「お腹すいたー! うぅでも朝になったらパンが食べられるからっ」


 そんなことを言いつつ、ぐるみーずの待つお布団へ潜り込む君。そのパンは僕が焼くやつだ。

 朝は君の方が早く仕事に出ていくんだから、勿論、僕に異論はない。君のお化粧タイムはおそらく短い方だけど(たまに遅刻しそうになっても間に合わせてしまう君はすごいよね!)、余裕はあるに越したことはないからね。



 そんな日が数日続いたのちの今日。

 君はちょっと嬉しそう。

 そんな君を見て、僕はふと思い出した。


「そういえばホワイトデーだったよね、もう過ぎてるけど。今日はお店が開いてるなぁ」


 美味しいケーキ屋さんを指して言えば、君の瞳が輝いた。


 あれ、でも、ちょっと迷ってる。迷ってるけど、本音は分かる。君はすぐ顔に出るもの。だから僕は。


「きっと新作ケーキ出てるよ。僕も食べたいから、行こ」


 言い切って、君を見る。


「行く!」


 君はすっかり僕を言い訳にして、ケーキを食べる気満々だ。

 きっと君は至福の顔で、美味しいものを美味しくいただく。

 そんな君が、僕は好き。


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