異世界に転生したとしても所詮大きな力には抗えない

びゃくし

いいわけない


 異世界に転生したとしても所詮大きな力には抗えない。


「バーナス君、きみもう少し早くクランに顔を出せないのかね」


 無理に決まってるだろ。

 連日俺が遅くまでクエストをこなしてるの知ってるだろうが。


「バーナス君! 新人の面倒見てって言ったよね! なんでこんな簡単な採取クエスト程度でクエスト失敗なの? 数が足りないまま期限を迎えるなんて聞いたことないよ!」


 知るかよ。

 アツイら勝手に行動して俺が助言しても誰も聞いてないんだぜ。

 そもそもなんであんな素行不良のヤツ、クランに迎え入れたんだよ。

 あれか? クランの幹部の親戚だからか?

 コネで入れただけのくせに威張りやがって。


「バーナスさんこの高難度クエストの準備明日までにしといてっていいましたよね。貴方今日残業ですよ。朝一までに支度を整えて置いて下さい」

 

 それ俺にふった仕事じゃねぇだろ。

 なんか虚空に頼んでいると思ったら俺宛だったの?


 親しい友達も慕ってくれる部下もいないからって俺に絡んでくるな。


「バーナスゥ、いい加減、飲み会に来いよ。お前一人だぞ。いつまでも顔を見せねぇのは。ほら、あれだあの芸がまた見てぇんだよ。な、いいだろ? ちょっとだけ顔出せよ」


 コイツ……いい加減に諦めろよ。

 何度も何度も飲み会に誘ってきやがって。

 俺の芸ってお前らにやらされた麦酒一気飲み三連発じゃねぇか。

 いくら麦酒のアルコール度数が低いからって現代だったらアルハラだぞ、アルハラ。

 急性アルコール中毒でぶっ倒れてもおかしくない。

 誰がそんな危険なとこ行くか。


 一年中クランの連中はこんな感じで嫌になる。

 俺のことをなんでも屋で頼まれたら断らないと思ってなんでも依頼してきやがって。


 ……だが俺は転生者とはいえ強力なスキルもないし、魔法も覚えていない。

 所詮二十代後半で伸びしろもないCランク冒険者。

 クランから離れて一人で冒険者として返り咲くには……。


「バーナスく〜ん、きみさぁ、クラン共有の設備壊したよね〜。あれさぁ〜。いくらだと思ってんの? 最新の魔力負荷トレーニング装置だよ。時価総額金貨五十万枚はかかったんだよ。言い訳ある? ないよね〜。きみが壊したんだもんね〜」

「あれは俺じゃなくて――――」

「きみなんだよ。きみが壊した。そうだよね〜」


 馴れ馴れしいクランリーダーの態度。

 俺のせいにするつもりか?

 アレはウチで一番の稼ぎ頭のAランクパーティが壊したんだろ。

 それを擦り付けるのかよ。


「じゃ、そういうことで、いいよね」


 その瞬間……俺はキレた。


「いいわけあるかぁっーーーー!!!!」

「…………え」

「いいわけねぇだろ! なんで俺のせいになるんだよ! 馬鹿なのか? 馬鹿にしてんのか!」

「いや……その……バーナスくん?」

「クランリーダーよぉ! お前自分が何やってるかわかってんのか! いくらAランクの連中を守るためだろうがやっていいことと悪いことがあるんだぞ! クソ野郎が!」

「……バーナスくん。いまのはいくらなんでも暴言だな〜。僕に歯向かうなんてどういう意味かわかってるの〜」

「………」

「きみを冒険者として活動出来なくするなんて簡単なんだよ〜。冒険者ギルドに僕のツテがどれだけあるか〜。さ、そこで精一杯謝ってよ『僕が悪かったです〜。設備の代金は借金してでも払います〜』ってさ。ほら、早く」


 舐め腐った態度だ。

 完全に価値を確信してやがる。

 でもな。


「…………脅したな」

「ん? 何かいったかい?」

「お前俺を脅したな」

「ああ、脅したといえばそうかな。でもきみが悪いんだし構わないでしょ」

「俺に冤罪を吹っかけたな」

「冤罪? まあ、そうだね。きみよりAランクの彼らの方が大事だから仕方ないよね」


 馬鹿がまんまと罠に嵌りやがって。

 俺は懐からある魔導具を出す。


 異世界で俺が必死に作ったある道具を。


「『冤罪? まあ、そうだね。きみよりAランクの彼らの方が大事だから仕方ないよね』」

「…………は?」

「録音と録画の魔導具だよ。いまの会話記録させて貰った」


 これは俺お手製の魔導具だ。

 戦闘力もない、飛び抜けたスキルもない。

 そんな俺が前世の知識を活かして作った傑作。


 知ってるぞ。

 この世界の録音と録画の魔導具は馬鹿デカくて携帯出来ないから油断してるってことをな。


「この録音と録画を王都の騎士団に提出する。勿論冒険者ギルドにも、取り引き先の商会にも全部だ」

「いや……バーナスくん……それは」

「散々俺をコケにしやがって。俺がなんでもうんうん頷くと思ったか? 馬鹿が、これを騎士団に持っていけばお前は脅迫罪だ。冒険者ギルドに持っていけばギルドから直々に調査が入るだろう。奴らはクランの弱みを握るためならなんでもするからな。商会は取り引きを止めるだろ。なんたってこれから落ち目になるのがわかるクランだ。近づくこともなくなる」

「バーナスくん、これは流石に」

「言い訳はないよな? じゃあなクランリーダー。俺はこのクランを辞める。退職金はいらねぇぜ」


 そういって俺は十年以上在籍したクランを飛び出した。


 背後でクランリーダーの情けない謝罪が聞こえたがまるで無視してやった。


 予告通り俺は記録した音声と映像を各所にバラまいた。

 案の定クランリーダーは捕まり事情聴取。

 俺も騎士団に協力し証言を取って貰い、脅迫罪は無事立証された。


 そこからのクランの転落は早かった。


 冒険者ギルドの介入でクランは細分化。

 素行の悪かったメンバーは次々とギルドの強制依頼に駆り出されあくせく働いていて、報酬もギルドに差し引かれるらしく生活がキツキツだと周囲に漏らしているようだ。


 結果クランは解体。

 クランリーダーは多額の借金を背負いこの街から去った。


 これにて一件落着。


 ん? 俺か?


 俺は冒険者を辞めた。

 だがただ辞めた訳じゃない。


「そうか……あまりに待遇の差があってどうしようもないのか……」

「はい、ボクがどれだけ頑張って依頼をこなしてもほとんどの報酬が取られてしまうんです。この間も金貨三枚の依頼で報酬が銀貨五枚ですよ。どうしたらいいでしょう、バーナスさん」


 俺はいま冒険者相手の探偵紛いのことをしている。


 映像と音声を記録出来る魔導具。

 これはやはり画期的な品物だった。

 小型で懐に入る携帯性。

 それでいてはっきりと記録が残るため証拠としても採用出来る。


 最初は捏造も出来るのではと疑われたが、そこは冒険者時代のツテで依頼を受けていた魔術師ギルドの力を借りた。

 特許を取得し誰でも使えるようにしたお陰でこの魔導具も大っぴらに使える。


 冒険者では鳴かず飛ばずの俺だったが、やはり前世の記憶は役立つ。

 俺は離婚調査さながら、冒険者たちの待遇について相談を受け、証拠を確保し、足を使って調べまくった。


 下級冒険者への搾取を許さない。


 その信念で俺はいま活動している。


 お陰で前より生き生きしているとよく言われる。


 異世界に転生したとしても所詮大きな力には抗えない。

 そう俺は勘違いしていた。


 きっと冒険者に固執してんだ。

 物語のように力で成り上がれると信じていた。


 でも違った。


 俺でも大きな力に抗える。

 反撃出来る。


 転生して良かったかって?


 最高だぜ、女神さま。

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