……いいわけ?

御月

深夜の喫茶店にて

 間もなく日を跨ぎそうな頃。当然、店内に客はいない。

 クラシカルな男性用制服に身を包む女性マスターが、ふと視線をあげた。


「いらっしゃいませ」


 深夜の散歩デートでの来店か、男女はカウンター席に腰を下ろす。店長は眉を潜めた。


(カウンターに、カップルで腰かける……?)


 予感は、外れていなかった。男女の表情は浮かない。


「ケンジ……もう、私」

「──」

「一生懸命なのは、分かる。いつでもケンジは本気……でも」


 男性は無言。ただ、カウンターを見詰める。


「私の趣味に合わせて本屋通いなのも知ってる。付き合い始めた日に合わせて、毎月、私好みのぬいぐるみをプレゼントしてくれるのだって……イヤじゃなかった」

「──」

「なよなよした奴が好きじゃないのを知って、ジムで鍛えて筋肉質な体まで」


(随分入れ込んで……それだけステキな彼女なのかしら?)


 背を向けてコーヒーを淹れる女性マスター。気遣いなのは、明白だった。


「今日のデートの理由も分かった。777日のサプライズだなんて、思いもしなかった」


(えっ……随分と偏執的?)


「もうね……私の心はぐちゃぐちゃ。いつもそう。行動の理由は全て私! それで!?」

「──」

「ケンジがどうしたいのか、全然見えてこないよ──私だってケンジの期待に応えたいって気持ちがあったのよ? なのに、いつも私のことばかり…… 私は、思うように動く人形と付き合いたいとは思わないわ」

「──」


 静かに……静かに不満をぶつけた彼女。

 それでも彼氏は黙ったままだった。

 タイミングの悪さに、彼女マスターは振り返ることも出来ない。


「──こんなときでも、すら……しないのね」


 パチン


 カウンターにカギが置かれる。当然、彼女は店をあとにする。

 男はカウンターを見つめたままだ。


(元より依存が強いのか、彼女がそうさせてしまったのか……まぁ、それよりも……どうすればいいの? 店、閉めても?)


日は、とうに跨いでいた。





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……いいわけ? 御月 @mituki777

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