白束装子のいいわけ【KAC20237】
松浦どれみ
拝啓、読者様。なんでこうなったのでしょうか。
人生というのは、自分が選択してきた結果の積み重ねだということは重々理解している。
だとしてもこの
さすがに予想できないでしょ、近所の店で数回食事しただけで恋人扱いされるなんて。
「私たち、付き合ってるのに合コンてなんですか!」
友人にせがまれ商店街の連中と合コンを開いたあの日、隣の書店の
「黒井さん、そういう感じなんだ……」
今までなんの気なしに向かいの洋食屋でランチをしていたのが、まさかデートとは思わなかった。
私にとってイケメンなご近所さんは一気に残念イケメンになった。
「そんなの当然じゃないですか。だから今日もご友人に私のことを恋人として紹介してもらえるものだと思っていました」
「へえ。どうやら誤解があったようですね」
さあ、認識を改めてください。そういう意味で言ったのに、彼はそれを理解することはなかった。
「そうですね。では今から恋人ということで」
「は? いやないでしょ。黒井さん、恋人いたことあります?」
「いいえ、恋人も性交渉も経験はないですがご安心ください!」
「え?」
うわあ、聞くんじゃなかった。
私の表情が歪みきっている事も気にせず、彼は話を続ける。
「職業柄、いろいろな本から知識は得ていますから。最近は大江戸四十八手絵巻をっ……!」
「やめい!!」
言い切る前に、私は黒井さんの口を塞いだ。
大きく息を吐き、交際の意思はないことを伝えるべく口を開く。
「あのさすがにお付き合いってのは……」
「装子さん、私の家ここ一帯の地主なんです。誰よりも早く地域の防犯カメラのチェックができるんですね。意味、わかりますか?」
にっこりと微笑み、首を傾げる黒井さんは美しく、死神とか悪魔とか魔王とか、そういうのは全て超越していて。私はこう返すしかなかった。
「な、る、ほ、ど〜」
そんなこんなで、六月に結婚します。
白束装子のいいわけ【KAC20237】 松浦どれみ @doremi-m
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