いつか一緒に青空が見たい
綺瀬圭
需要と供給
「今日も会えて嬉しいな」
君はいつも言ってくれるね。とびきり綺麗な化粧をしている君を眺めるのが幸せだ。
会える時間が限られているのが実に悲しい。いつまでも君を独り占めできたらいいのに。二人だけの世界に行けたらいいのに。
「あいつには飲み会って言ってあるんだ。いつもより長く会えるよ」
喜ばせようとして言ったのに、君はどこか辛そうに笑った。
「あんまり遅いと奥さんが悲しむよ」
どこまでも優しい子だ。心を埋め尽くす背徳で沈んでいるのだろう。
今でも信じられない。夜を羽ばたく蝶のような君が、こうして目の前にいること。
ただ、会えるのは夜だけ。誰にも見られないよう、気を付けなければならない。
「あいつとは必ず別れる。君と生きていくためなら何だってする」
娘が独り立ちするまでの辛抱だ。それさえ終われば、すぐにでも君を私のものにする。
「私は会えるだけで嬉しいよ」
君は美しい。容姿だけでなく、心までも。いつも私のことを想ってくれる。
人気でなかなか手に入らない限定洋菓子を持って行ったとき、君は喜びながらも「私のために無理してもらうのは申し訳ないから」と、食べ物はこれで最後でいいと言ったね。
愛を何かの形にしたくてバラの花束をプレゼントしたとき、君は驚き笑いながらも「花が枯れるのが辛いから」と、やはり二度目は必要ないと言ったね。
意を決してプロポーズしたとき、君は肩を震わせ目を潤ませながら、「あなたを不幸にしたくない。こうして会えるだけでいいから」と、涙の決断をしたね。
今日も君はタクシーに乗って、ネオンの中に消えていく。次、いつ会えるのかも分からないまま。
私は夢見ているんだ。
君と手を繋いで青空の下、愛の言葉を交わすことを。
君が私だけを見つめ、笑いかけてくれることを。
いつか訪れるその日のために、私は何度も会いに行くんだ。
「いつも指名してくれてありがとう。今日も会えて嬉しいな」
いつか一緒に青空が見たい 綺瀬圭 @and_kei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます