春のまにまに
exa(疋田あたる)
第1話
「すまん! 遅れた!」
「うん、待った」
勢いのいい謝罪にハルはすっぱり返す。
「そんでもって、バレンタインのお返し、買えなかった!」
続いたシロウの言葉に、ハルはちょっぴり眉をあげるだけ。
「あっそ」
言って、彼女はひとり歩き出す。
シロウは慌ててその背をおいかけ、幼なじみ兼彼女歴一か月のハルに並ぶ。
「いや、用意はしようとしたんだよ。昨日、デパートのホワイトデーコーナー行ってさ。探したわけよ」
「昨日って。ホワイトデー当日でしょ。ほんとシロウはそういうとこ、そうだよね」
ハルの呆れっぷりも堂に入ったもので、怒るのもばかばかしい、と言わんばかり。そしてシロウのほうでも、彼女のそんな態度には慣れっこで話しを続ける。
「でも、ああいうとこってすげえ色々置いてあるのな。悩んでるうちにどんどん時間が経って。どうしよ、まだ決めてないのに! って焦っちゃったらもう、あれもこれも違うような気がして、結局決められないまま閉店になっちゃってさ」
「ふうん」
軽い相槌には、ハルの色んな気持ちが込められていた。
閉店まで悩んでくれたんだ、の「ふうん」であり、結局決められなかったんだ、の「ふうん」でもあり。
一番は、ひとりで悩んで決められないくらいだったら、私といっしょに過ごしてくれれば良かったのに、の「ふうん」だったけれど。
それを素直に言えるハルではない。
――冬でもない、夏でもないあやふやな季節を名前につける親がいけないんだ。
なんて、ハルが名前のせいにしていると、不意にシロウがハルの手を握った。
「だから、代わりにさ!」
「え、ちょっと。なに!?」
急に走り出したシロウに手を引かれて、ハルも駆け出す。
向かった先はさびれた公園。ひと気のないそこに駆け込んで、ハルは思わず目を丸くした。
「満開の桜、見つけたから。ハルにプレゼント!」
にっかり笑うシロウはあんまりにも無邪気で、ハルは思わず笑ってしまう。笑って、素直に声をあげていた。
「きれいだね」
「だろ?」
「きれいだから、サンドイッチランチとスタバの紅茶つけて私とお花見で、許したげる」
笑いを引っ込め、わざとつんとそっぽを向いて言えば、シロウが「よっしゃ!」とガッツポーズ。
ちょっぴり立ち位置を変えたふたりの上に、今年も変わらず桜が揺れていた。
春のまにまに exa(疋田あたる) @exa34507319
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