イイ!!訳あり物件

押見五六三

全1話

「あの部屋、夜中に出るんですが……」

「それは良かったです」

「な、な、なんですか?幽霊ですよ!お化けなんですよ!!」

「ご安心ください。あのアパートには良い幽霊しか出ませんから」


ど、どんな言い訳だ。

幽霊にイイとかワルイとか有るのかよ!

訳あり物件を安易に借りた俺の負け?


俺は1ヶ月ほど前、親元から離れて大学に通う為に、アパートを借りて独り暮らしする事を決めた。学校近くに超格安物件を見つけたので、すぐに連絡。【告知事項あり】と書かれていたので薄々感づいていたのだが、聞いたら50年ほど前に災害で沢山の人が亡くなったそうで、アパートはその場所に建てたから安いのだと聞いた。俺はそれなら大丈夫だろうと思って借りたのだが、実際に住んでみたら初日から3日間連続で夜中に成ると玄関先の方から女の子の笑い声やバンバンと何かを叩く音が。最初は引っ越し疲れで寝ぼけていると思ってたのだが、今朝、玄関先に行くと並べてあった靴が動かした形跡が有ったのだ。俺は慌てて大家でもある不動産屋にこうして相談に来たのだが……。


「座敷童子を御存知ですか?」

「あの東北地方に伝わる、子供の妖怪ですか?」

「そうです。座敷童子が住む家は豊かに成ります。その家の住人が幸福に成る良い幽霊です」

「いや、確かに子供の声でしたが、座敷童子とは言い切れないでしょ?」

「これをご覧下さい」


そう言って不動産屋は御札を見せてきた。

札にはセーマンの印に【悪霊退散】という文字と【良霊歓迎】という文字が書かれてあった。


「……これは?」

「この御札をあのアパートにいっぱい貼って有ります。つまりあのアパートには座敷童子のような良い幽霊しか寄り付かないのです」


よし!駄目だこりゃ!

今月中に引っ越ししよう。


俺はアパートに帰り、玄関に盛り塩を置いて念仏を唱えた。

そしてスマホで新しい物件を探しだす。

なかなか安くて近場の物件が見つからない。

探すのも飽きて漫画を読んでいる間に、俺はついつい寝てしまったようだ。


「お兄ちゃん寝てるの?」


少女の声に慌てて俺は目を覚ました。

目を開けるとそこにはオカッパ頭でパジャマ姿の幼女が、毬みたいなボールを持って立っている。


「うわあああぁぁぁ!!ゆ、幽霊!!」

「幽霊じゃないよ。ゆうだよ」

「ゆ、優?」

「うん。お兄ちゃん、一緒に遊ぼぉ」


幼女は両手でボールを突き出してきた。

どうしよう?

幽霊を見たのは初めてだ。

どう対処したらいいんだ?


「どうしたの?お兄ちゃん」

「いや……えーと、優ちゃんだっけ?」

「うん!」

「優ちゃんはもう死んでるんだから、天国に帰らないといけないよ」

「優、死んでないよ」


そうか……突然の災害で自分が死んだ事に気付いてないんだ。可哀想に。

だったら成仏できるよう、とことん遊んであげるか。


そういう訳で俺は優ちゃんとボール遊びを始めた。優ちゃんはとても楽しそうにボールを投げてくる。可愛らしくて元気な子だ。目がパッチリしてて大きく成ったら美人に成ったろうに。本当に残念だ。


「優!!また勝手に上がり込んでたの!」


突然、玄関から綺麗な大人の女性が現れた。

顔が優ちゃんそっくり。

ゆ、優ちゃんのお母さん幽霊?


「すいません。この子すぐに合鍵使って人様のお家に入るもんですから……あっ!私、隣に住む林田です。はじめまして」

「えっ?隣りの人?」


なんだ?優ちゃん幽霊じゃ無かったの?

いや、幽霊にしてはいやにリアルだとは思ってたけど……。


「夜分に失礼しました。さあ、優!帰るわよ!」

「バイバイ!お兄ちゃん!今度はお昼間に遊ぼうねえ!」


こうして親子は部屋から出ていった。


なんだよ。優ちゃん、お隣さんの子供かよ。

幽霊じゃ無くて本当に良かった。

そうか。幽霊は居なかったんだ。

さて、安心したし、夜も遅いから寝るか……って!

わけ無いだろっ!!

何で俺の部屋の合鍵もってんだよっ!?


〈おしまい〉


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