理屈屋

青空野光

僕は馬鹿だ

『人は人生で三度だけ本気の恋をする』と、いつかどこかで聞いたことがあった。

 それが一体全体どこの誰が言ったのかは知らないが、本当にデタラメもいいところだ。

 なぜなら僕にとって今の彼女は、十三人目にして十三度目の『本気の恋』の相手なのだから。


 先週末、酒に酔った勢いで彼女にうっかりその話をしてしまった。

『それじゃあ、私も含めてその中で一番好きだったのは誰?』

 そう聞かれて少しも考えずに、しかも真顔で『全員みんな』と答えた僕は、間違いなく救いようのない馬鹿だ。

 当然ではあるが、彼女の機嫌を損なわせてしまった。

 それからというもの、今日に至るまで一週間もの間、彼女は一度も電話に出てくれない。

 重ね重ねになるが、これは僕が全面的に悪かったのは間違いない。

 ただ、もし彼女の質問が、『その中で一番大事にしたいと思ったのは?』だったのであれば、それは即座に『君だけ』と断言したであろう。


 そう考えると『人生で三度~』というのはただ単に、それを言った人がそうであっただけであり、僕の場合では今の彼女で十三度目だっただけ。

 そして、十四度目など訪れないことは自信を持って言える。

 ほとぼりが冷めたら――それが何時いつになるのかは彼女次第だが――プロポーズをしたいとすら思っている。

 彼女にとって僕が『最後の恋の相手』であるならば、きっと了承してくれるだろう。

 もしそうでなければ、それはそれで仕方がない。

 僕は独身のままで生涯を終えることが決定する。


 ちなみに指輪はすでに購入済みだった。

 サイズは彼女が寝ている隙にコッソリ測らせてもらった。

 プロポーズする時には――柄ではないが――花束も一緒に渡したい。

 ベタだろうが、真っ赤な薔薇の花束が良いだろう。


 人生で最後の恋が実るかどうかは『神のみぞ知る』といったところだが、あいにく僕はその神とやらを全く信じてなどいない。

 僕が信じるのは、彼女に対する自身の真摯な気持ちだけだ。

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理屈屋 青空野光 @aozorano

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