言い訳を許さないキューピッドは今日も奴らに弓を引く
ムタムッタ
脳天狙撃でカップル成立
「ねぇ、
「えぇっ⁉︎
「……うん」
「だ、誰から?」
「駿と同じ学年の、バスケ部のひと」
夕方川沿いの土手。幼馴染同士の駿と奏がお互いオタオタ。その様子を空から監視しているのがキューピッドの私。
バスケ部の奴といえば、確かチャラ男だったような……
「……い、いいんじゃねーの⁉︎ 男っ気もなかったし恋人欲しーっていってたじゃねーか」
「そ、それは……」
この二人は家が隣同士で一年の歳の差がある高校生。奏が駿のことを好きなこと、駿が奏を意識し始めていることも調査済みだ。
なのに駿ときたら、『奏は妹みたいなものだから』とカスみたいな言い訳を友人にしているのを見てしまい私が呼ばれたわけで……
「もーこのカップル候補もか……めんどくさ」
なにが妹みたいだよ。昨日悶々としてたくせに。さっさと抱け!
……と、無責任に言えない昨今。もどかしい現代社会では恋のキューピッドである私も慎重にならざるを得ない。
「──とでも思ったか!」
めんどくさい、ただでさえ草食系が増えて矢が足りないのにくだらない戯言で私に残業させんじゃねぇっ!
左手の弓を構え、背中の矢を取りつがえる。
真っピンクの鋭いそれを駿へ向け、最近の掛トレンドの掛け声を叫ぶ。
「
放たれた矢は一直線に空を切り、駿の脳天を貫通。衝撃で駿は奏に抱きつく形に。
ひとまず成功。
「ちょ、ちょっと駿っ⁉︎」
「わ、悪ぃ! つまづいた……」
早く言え、早く好きだと言ってしまえ。そして私を定時で帰らせろ。
離れた二人がお互いに視線を逸らす。
「……」
「…………」
沈黙。
「なんでだよ!」
流れ的にもいいでしょ⁉︎
強引だろうとさっさとしろやッ!!
煮え切らない、まったく最近の若い奴らは……!
男の方だけぶち込めば終われると思ったのが間違いだったね。駿にはもう一発、ついでに奏にもお見舞いさせてやるか。
今度は2本の矢をつがえてカップル候補の少年少女へ構える。大きく息を吸い込み、大きく叫ぶ。
「
渾身の狙撃。
「わっ──!」
「っとと!」
脳天を射抜かれたふたりがよろけて、支え合うように再び抱き合う。
頼む、余計な建前はいらねー! さっさとくっつけー!
──もうくっついてるけど。
「やっぱりダメだ!」
「駿っ⁉︎」
「奏、俺と付き合ってくれ!」
ようやく矢の効果が出てきたかな?
それとも本心に正直になれたのかな?
少女が少年の胸の中で小さく頷くのを見て、その場から退散。
「ふぃ〜……まったく、最初っからつまんない言い訳するなっての」
後少しでバスケ部のチャラ男とくっつくとこだった。
「えーと、次は……お、奏に告ったチャラ男と委員長の組み合わせか〜」
カップルが成立したことで、チャラ男君の相手が変わったようだ。
矢が足りなさそうだし、仕事は明日に回そう。何本いるかなぁ……調査もしないと……あーめんどくさ、私抜きでさっさとくっつけっての。
次のカップル候補もくだらない言い訳してたらまた撃ち抜いてやる。
はい、今日のお仕事はここまで!
言い訳を許さないキューピッドは今日も奴らに弓を引く ムタムッタ @mutamuttamuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます