魔女リルフィアのいいわけ

友斗さと

第1話

かつて、この国を蹂躙した最悪の魔女がいた。

かの魔女は多くの国民に恐れられた。魔女の姿を見れば誰もが恐れ慄き身を隠したものである。

だがその最悪の魔女はある日を境に姿を消す。


死んだのではないか。

いいや、きっとまた現れる。

などなど……。


様々な噂が飛び交っていたが、誰も真実を知らない。


そうして魔女を知る者もほとんどいなくなった今日この頃。国民がみな、とても平和な日々を謳歌していた。


そんな時に魔女リルフィアのもとに一人の魔女が訪ねてきた。


「リルフィア!やっと見つけた!」

「マリリア!」

「あんたねぇ!なぁにこんな所で本屋なんてやってるのよ!」

「いやだって。何もしないのも暇じゃない。だからここで本屋をやってるのよ」

「全く……。それで?アレはどうしたの?」


リルフィアはマリリアから顔を逸らした。

マリリアはそんなリルフィアを見て顔を歪めた。


「私は悪くない」

「何言ってるの!いいから!どうしたのか言いなさい!」


リルフィアは頬を膨らませた。

そうして杖をくるんと回して一つのぬいぐるみを呼び出した。それはリルフィアが家で大切にしているぬいぐるみのマキアだった。

リルフィアは黙ってそのぬいぐるみをマリリアに差し出した。


「ま、まままさか……っ!」


リルフィアは黙って頷いた。


「こ、これが……最悪の魔女・マキア様?」

「そ。そして私たちのお師匠様」


マリリアはわなわなと体を震わせた。


「なんでこんなことになってるのよーーー!!」

「マリリア!いいわけさせて!!」


リルフィアは必死になって話し始めた。


「マキア様ね、力が暴走して最悪の魔女なんて呼ばれたけどね!その時に力を使い果たしちゃって、死にそうだったの!だから仕方なくぬいぐるみの姿にして何とか力を蓄えてるところなの!!」

「だからってぬいぐるみ!?あの偉大な魔女がぬいぐるみ!?」


マリリアは叫びながらその場に倒れた。


最悪の魔女・マキア。

彼女は力が暴走し死にかけていたところを、弟子のリルフィアに助けられ、ぬいぐるみの姿となって力を取り戻しているところだった。


そしてマリリアも、マキアの弟子の一人。

リルフィアはマリリアを介抱しながら呟いた。


「マリリア、私たちは待つしかないのよ」


リルフィアは三人で楽しく過ごしていた日々を思い出していた。


この国は平和だ。

だが、リルフィアにとっても、マリリアにとっても、大切な大切な師匠・マキアがいなければ、どんなに平和でも価値はない。


それだけ二人にとってマキアは大切な存在だった。


だからいつまでも、これからも、リルフィアは待ち続けるのだ。




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