とおりゃんせ 🧭

上月くるを

とおりゃんせ 🧭





 三方の車がいっせいに停止して、スクランブル交差点を自在に人が横断し始める。

 駅ビルの二階の窓から眺めれば、音もなく動きまわる動画に見えるかも知れない。



 ――♪ とおりゃんせ とおりゃんせ ここは どこの 細道じゃ……。



 よりにもよってなぜこんなもの悲しい、よく聞けば怖い内容の童謡を選んだのか。

 何十年も前の国交省だか県だか市だかの関係者に、その訳をカクニンしてみたい。




      🏙️




 にしてもだ、向こうからやって来る背中の丸まった老女は、あいつにちがいない。

 たしか同い年だったはずだが、心根がねじ曲がっていると、老けも早いと見える。


 サングラスだし、マスクだし、こちらに気づくはずがないが、目を、そらさない。

 にらみつけるのではなく、氷のように冷ややかにザンコクに凝視しつづけてやる。


 

 ――ちょっとあんた、よくもうちの子を甚振ってくれたね、いい歳して。"(-""-)"



 マスクの隙き間から吐き出す呪い、あいつの老体に、がんじがらめに取りつきな。

 PTAのオバハンが小学生いじめ、いったいぜんたい、どういうことなんじゃ?!




      🐤




 小柄で華奢に生まれついたむすめは食が細くて、いつまでもヒヨコみたいだった。

 憶病で怖がりで運動が苦手で、おとなや子どもの乱暴な言動にいつも怯えていた。


 なのに、地域の子ども会主催のイベントでドッジボール出場を命じられたらしい。

 当然、腕力のある子の格好な標的にされ、思いきり強くぶつけられアザだらけに。


 なのに、そのむすめに「足手まといなんだよ」と耳打ちしたらしい、あのおんな。

 母を悲しませたくなくて黙っているむすめに代わり、友だちの子が教えてくれた。


 

 

      🐌




 よくも卑劣ないじめをしてくれたね、いいわけ無用、生涯、絶対に許さないから。

 すれちがうとき放った呪詛、筋肉のなさそうなあいつの老体にへばりついたろう。


 

 ――行きは よいよい 帰りはこわい……。

 とおせんぼしてやる、あいつの天国への道。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とおりゃんせ 🧭 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ