不アン神社

 下町の一角にひっそりと建つ神社が、いつからあるのかは誰も知らない。いつの間にか建っていたのだと、長年この場所に住む人は口をそろえて言っていた。

 そんな不思議な神社は、不アン神社と呼ばれていた。



 不アン神社の参拝方法は独特で、ご利益を受けたい項目が書かれた木片を購入することから始まる。健康や合格、面白いものではラッキー7と書かれたものまである。ラッキー7は主にギャンブルで勝ちたい人が購入するようだが、宝くじにもご利益があるとの噂で、なかなかに人気があった。


 木片購入後、合格や健康には墨で大きく不の文字を描き、ラッキー7にはアンに見立てた泥を擦り付ける。一度、不合格や不健康、アンラッキー7にした後で、神社の奥にある湧き水のところへ持って行き、つけたばかりの文字や泥を落とすのだ。


 その際、心の中ではで感謝をしなければいけない。間違っても、未来への願望を口にしてはいけない。

 合格と願うのではなく、合格と報告しなければいけないのだ。

 その点さえ気を付ければ、あとは書いた文字や泥を綺麗に洗い流すだけだ。

 そうすることによって、不アンが流され、心の中で思った通りに願いが叶うのだ。



 ここに祭られている神様は、世の中の不アンを引き受けてくれる心優しい神様なのだから。

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不アン神社 佐倉有栖 @Iris_diana

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