KAC20237 いいわけ

この美のこ

いいわけない……。

 桃が泣いている。

「紫苑くん、死んじゃいや。桃を一人にしないで」

そんな声が、僕のベッドの枕元から聞こえて来た。

正直、桃を泣かせてしまったことは辛いけど、その反面僕の事を心配してくれてる桃に嬉しくもある。


僕は、瞬時に理解した。

事故にあって、今病院にいること。

ラッキーな記憶は夢だったこと。

そしてそばに桃がいてくれること。

身体のあちこちは痛いけど、生きていること。


僕がゆっくり目を開けて

「ここはどこ?」

と言うと、桃が苦痛の顔を、輝かせて

「あっ!し、紫苑くん、分かる?」って。

可愛い!

僕の目の前に桃が…。


「だ…れ…?」

僕は悪戯心でつい言ったしまった。

桃は急に顔を曇らせて、又泣きそうになる。

「紫苑くん、私だよ。桃だよ」

「ん?もも…?」と惚けてみた。

「分からないの?紫苑くん!?」

「しおんくんって……?」

桃は慌てて僕の手を握って

「うそ、記憶がないの?」


てへへ、桃の手、柔らかい、ずっとこのままでいたいけど、そろそろほんとうの事を言わないとヤバいかな。


「桃、冗談だよ」僕が桃の手を握りしめたままニッコリ笑って言うと

「……紫苑くんのばか、ばか、ばか……」

桃は泣きながら怒って、

「どうしてそんな嘘ついたの?」

そりゃあ、決まってる、桃が可愛すぎるからさ。

でもそんなこと言えない。

「ごめん、桃」

「私、心配でずっと紫苑くんのそばにいたのよ」

「ありがと、桃」

「このまま、目が覚めなかったら、どうしようって」

「悪かった、桃」

「私の事、守るって言ったよね」

「もちろんだよ、桃」

「私の事、どう思ってるの」

「それは、その」

「なぁに、はっきり言って」


うっかり記憶喪失の真似をしたばっかりに桃から詰問の嵐。

このままでない。


一方、桃はと言うと、安心したと同時に紫苑くんをいじめてみたくなってきた。

桃は心の中でニンマリしながら

「うふふ、紫苑くんの、しっかり聞かせてもらおうかな?」


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