二十六話 この子に学院はまだ早いんじゃなかろうか
「――んで? 校舎の建て直しの請求は魔界に送ればいいのかな?」
「すみませんすみません!! 魔王城の財源から何とか捻出しますので……!!」
「ごめん、なさい……」
流石に事故の大きさから、リリンとララさんは理事長室へと呼び出されていた。
一応当事者の俺も同席していたが、ララさんの低姿勢ぶりが凄まじく呆気にとられる。
因みに理事長は珍しく激おこ。指をトントンと忙しなく動かし額には青筋が。
「原因は私の魔術薬学の講義で……。サンプルの薬をリリン様が誤って飲んでしまい……」
「美味しかった……。でもその後の記憶、曖昧……」
「ふむ……。見たところ、特に異常の無い魔力増幅薬に見えるが……」
そこで理事長が俺に目配せをし、手に持っていた薬を俺に手渡してきた。
それを俺もまじまじと見るが、理事長の見解と同じく普通の薬にしか見えなかった。
「薬に問題があるというよりは……リリンに合わなかっただけかと思います」
リリンの魔力の流れを解析した時、彼女の魔力は非常に不規則に乱れていた。
まさしく『酔っている』ようなそんな状態。だから制御が効かなくなっていた。
「なるほど。魔王の血筋故に、正常に薬が作用しなかったということか」
「あくまで予想ですが、恐らく。少し特殊な魔力なのかもしれません」
つまりは不幸な事故に他ならない。まぁ、明らかに不用意だし考え無しなんだが。
監督不行き届き、勝手な行動、一歩間違えれば多くの犠牲者が出た大事故。
「どんな罰でも受けます……!! 魔族の私は、信用ならないとは思いますが……!!」
「……ララ、悪くない。悪いの、私……」
通常なら重い処分が下されるのは間違いない、取り返しのつかない過失だった。
深く深く頭を下げたリリンとララさんを見た理事長は、一つ息を吐く。
「……カイト。魔族化したしたリリンを見た生徒はいるのか?」
「爆発前に変貌していたのなら分かりませんが……その後の視認はありませんね」
あの爆発が魔力の乱れの前兆だったというのなら、その前は正常だったと判断できる。
爆発の瞬間には既に全員が外に出ていたので原因の特定も生徒には難しいだろう。
「そうか。では、リリンを他の生徒が恐れるような状況は無いとみていいな。今後ララ教諭の講義は私が監視するとして、リリンに関しては近くにカイトがいれば問題無いか」
「!! まだ、私達をこの学院に置いていただけるのですか……?」
「わざとではないのだろう? ぶっちゃけカイトの活躍あったならトントンだし」
「ッ……!! 感服いたしました……!! ありがとうございます……っ!!」
何という天秤のかけ方だ。アイリスの予感が無ければ一体どうなっていたことか。
理事長の考えとしては、リリンとララさんを追い出すことはないということらしい。
「あり、がとう……。ティアちゃん……」
「ぶはっ!? まさか理事長の私をそう呼ぶのか!? 流石は魔王の孫娘、豪胆だなぁ!!」
「……? ティアナだから、ティアちゃん……。何か、変……?」
「変と言うか、その、なんというか……」
まぁ、出会った当初から大方分かっていたのだがリリンは明らかに精神的に幼いのだ。
精神年齢は恐らく十歳ぐらい、その上で普通の人間のように一般常識は学んでいない。
(ぶっちゃけリリンにはまだ学院での生活は早いんじゃないかな……?)
それこそもっと人間のことを知ってからでも、と思わずにはいられない。
それは理事長も同じことを思ったのか、顎に指を置いてうーんと唸っていた。
「そもそもが特例中の特例だしな。とはいえ、リリン達の事情も鑑みると……」
「ティアちゃんには伝えてある……。私が、ここに来た目的……」
「リリンの目的……?」
理事長は『シンプルにお前が欲しい』と面接で言った三人にリリンを含めていた。
それ自体が目的なら別に今でなくともとは思う。俺はずっとこの学院にいるし。
「取り敢えずカイト。暫くリリンの学院生活につきっきりで一緒にいてやってくれ」
「え、講義中もずっとですか!? 通常時の仕事は……?」
「……悪いな」
「目逸らすの良くないですよ」
しかし、あんな事故を目の当たりにした以上リリンを放っておくわけにもいかず。
そして理事長からの指令とあればそれも仕事。仕事であれば全うするまで。
「よろしく、カイト……。にへ……ずっと一緒、嬉しい……」
「この笑顔を守る為なら残業も辞さない覚悟」
とにかくリリンにこの学院生活を全力で楽しんでもらう。話はそれからだ。
そしてまずはぶっ壊れた西棟の修繕から俺のタスクが埋まっていきそうだった。
女魔術学院で用務員をやってる俺、気付けば救世主になってました 小路 燦 @ojisannkubo
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