二十五話 レイアース魔術学院、危機一髪
「なんだってこんなことになったんですかね!?」
「まさかこんなことになるなんて思わなかったんです!! 本当に申し訳ありません!!」
レイアース魔術学院創設以来初の大事件勃発。校舎の一つが瞬く間に全壊した。
それはもう呆気ないぐらいに。結論から言えば一人の怪我人も出なかったのは奇跡だ。
「……? 何が起きたか、分からない……」
「おぉふ……なるほどね……」
そんな事故を引き起こしたのは、何を隠そう魔王の孫娘であるリリンだった。
一体全体どうしてこんなことになってしまったのか、少し振り返ることにする。
昼下がりのコーヒーブレイク。午後の仕事に向けてのちょっとした至福のひと時。
今日も学院は平和でありますように。そんな願いを込めてコーヒーを一口。
「――カイト様ぁ!! かつてないほどヤバい嫌な予感がし過ぎて頭が痛いです!!」
「ぶふぅ!? え、何で!? いやその前に何時何処で!?」
些細な願いが秒で砕けた。アイリスの予感は絶対なのですぐに詳細を聞く。
「五分以内、西棟だと思われます!! というか、リリンさん絡みです!!」
「マジ……? 俺、まだあの子がどれほどなのか把握し切れてないんだけど」
とか何とか言ってる場合じゃない。猶予もないのですぐさま移動を開始する。
リリンが登校し始めてからまだ三日ぐらいだが、彼女の心根が優しいのは知っている。
「ちょっと待て、今リリンが受けてる講義ってララさんのじゃ……」
人間界の学院に属しているとはいえ、彼女達は紛れもなく魔族なのだ。
まさか、という推測が頭を巡る。万一の可能性を考慮して最悪の想定をするが。
「有り得ません。あの叔母様がその程度の計画を見抜けない筈がありませんから」
「!! そうだよね、ごめん」
一瞬でもそんな可能性を考えてしまった自分を恥じ、信じる方向にシフトする。
そしてアイリスと共に西棟前にたどり着いたその瞬間、凄まじい魔力の波動を感じた。
「ッ!! アイリスはこの場で待機!! 防護障壁を張るからその中に!!」
「はいっ!!」
すぐさま中に入って魔力感知。中にいる数十人を強制的に魔術で外まで転移させる。
その直後、魔力の暴発による爆発が西棟を襲った。凄まじい爆風が辺りを包み。
「……あは。あはははははは!!」
その中心にいたのは、銀色の髪が赤黒く変色し魔族の姿になっていたリリンだった。
なんとか転移が間に合い、西棟中にいた全員が爆発から防護障壁で難を逃れ。
俺は爆発が直撃する直前に魔力で身体を強化したので無傷。しかし校舎は全壊だった。
「人間……? 人間は、私の敵……?」
「錯乱してる……? いつものリリンじゃない……」
ちょっとだけ気だるげで。だが、無邪気に笑っていることが多い彼女とは程遠い。
何が起きたかも分かっていないのか、辺りをキョロキョロして漸く俺を見つけていた。
「とにかく落ち着かせないと……!!」
リリンがああなってしまった原因を考えるのは後。まずは彼女の鎮静を図る。
「私に、向かってくる……? じゃあ、敵なんだ……」
「うお!? ただの魔力放出だけでエグい!?」
ものすごい速度で俺に向かってくる魔力球を避け、一瞬でリリンの後ろ側に回る。
懐に入られ、ぎょっとしたリリンの隙をついて魔力の流れを解析する眼を魔術で展開。
(!! これは……要するに、酔ってるみたいな状態なのか?)
結論から言うとリリンの身体の中を流れる魔力は、何の統率もなくぐちゃぐちゃだった。
故の暴走と判断した俺は、リリンの背中に手を置いて魔力の流れを変換し始めた。
「!! あ……」
それが大当たりだったのか、正常な流れとなった魔力がどんどんリリンを落ち着かせ。
みるみるうちに変色していた髪はいつもの銀色に戻り、角も翼も引っ込んだ。
「はっ、はっ……!! マジで学院最大の危機だったかもしれない……!!」
「……カイト? 汗、凄い……よ?」
「学院も、リリンも無事で安心したからね……」
正常に戻ったリリンを見てどっと汗が噴き出した。一手間違えれば終わっていた。
そして当の本人は、呑気に俺の心配をしているのだから気も抜けてしまうものだろう。
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