#6
「月とスッポン……ご存知ですか? 先生」
「これでも一応学校の教師だからな。それくらいは知ってる」
俺の生徒である女子中学生と、学校の屋上で二人きり。
本当はもう月が見えるくらいに夜も遅いので先生としては生徒を早く家に帰さないといけないんだが、まあ今日はいいんだ。
「それよりもお前、十五歳の誕生日プレゼントがこんなんでいいのか? 子供なら子供らしくゲームとかそういうの欲しがればいいのに」
「いいんですよ。私はこれで」
「楽しいのか? 月を眺めるだけなんて」
見てても変わるわけじゃあるまいし。ましてや落ちてくるわけでもない。
彼女はわざとらしく顎に手をあててから、ちょこんと首を傾げた。中学三年生にしては反則級の外見も相まって、かわいい。
「うーん、先生の授業よりはよっぽど楽しいです」
「ははは、先生泣いちゃうぞ」
「ならもっと楽しい授業をしてください」
ハハハ……本気で泣くぞこら。
涙を拭って横に立つ彼女を見れば、俺を気にかけてる様子は一切なかった。
「先生。月とスッポンについてですが」
「ああ……まだ続きが?」
「はい。月とスッポン。夏と冬。互いに相容れない存在って、なんだか私達みたいじゃないですか?」
真面目な顔で言ってくる彼女に、俺は何を言うんだと笑って返す。
「もう関わってるだろ。先生と生徒、ほら」
「全然です。それはまだ春と夏みたいな、近いけど違うやつです」
「そういうもんかね」
「そういうものです。…………十五の私と大人の先生じゃ……まだ……」
「ん、なんだって?」
「なんでもないです。早く夏来ないかなーってだけです」
「今がそうだろ。珍しく蝉は鳴いてないけど」
「違いますよ、先生」
そういうと彼女は後ろ手を組んで柵から体を離し、いたずらに微笑んだ。
「次の……十六回目の、私の夏のことです」
短編集(書き出し多め) Ab @shadow-night
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