俺のまじない屋にリピーターはいません

常盤木雀

アンラッキー7

 俺は自分のスキルを『アンラッキー7』と呼んでいる。他人に幸運を付与できる代わりに、当人に不運を七回もたらす。もちろん俺自身にもかけることができる。

 スキルを使って、俺はまじない屋を営んでいる。代償があるとはいえ確実に幸運を得られるのだ、報酬は大金であろうと客は集まる。

 先ほど報告に来ていた女は、結婚式に天気が晴れることが願いだった。結果、晴天の上に虹まで出たらしいが、不満そうだった。女が得た不運は、前日の風雨による水溜まり多発、彼女の料理にだけスパイスがない、日光による日焼け、ブーケの花粉によるくしゃみ、不吉な鳥の大群、開閉の度に軋むドア、帰宅後に気付いた首の虫刺され、だそうだ。二度と頼まない、と吐き捨てて帰っていった。

 過去の報告からすれば、女の代償はましな方だ。傘を失くさない代わりに財布を落とした男もいるし、道に迷わない代わりに野生動物と遭遇した老人もいる。

 俺のスキルを使いこなすコツは、気軽に不運を感じることだ。小さなことで早々に不運を七回感じてしまえば良い。時計の秒針と分針が重なっていない、運が悪い。壁の汚れが目についた、履き物の縫い目が気になる気がする、など何でも良い。日頃から後ろ向きに生きている俺は、このスキルの利用に向いていた。



「すみません、お願いがあってきたのだが」


 来客かと確認すると、先日依頼に来た冒険者の仲間たちだった。冒険者本人はいない、となると死んだ報告か。


「報告か?」

「いや、こちらでうちのリーダーが依頼をしたのだが、もし、リーダーがまたこの店に来ても、依頼を断ってほしい」


 これが心ばかりの礼だ、と一人が少なくない重さの金袋を差し出した。


「何があった?」

「……リーダーがポジティブすぎるんだ。トラブルを全部『縁起が良い』『ラッキーだ』で片付けてしまう」


 聞けば、想像以上に前向きな人間らしい。

 出発直後に強敵に遭遇するのも、途中で食料を落とすのも、軽い怪我をするのも、縁起が良いか糧になる良い経験だと笑うそうだ。そのせいでいつまでたってもアンラッキーを消化できず、仲間にとっては不運が続いている。


「俺は、依頼は断らない方針だ」


 冒険者たちの仲間が露骨に反発するのを見ながら、金袋を指差して嗤う。


「でも、その金で『リーダーが依頼を思い付かない幸運』を恵んでやってもいいぜ」


 当然、アンラッキー七回がついて回るが。


 冒険者の仲間たちは、金とお互いへと視線をさまよわせて戸惑っている。お前が行けよ、と声に出さない言葉が聞こえてきそうだ。自分が不運を被るのは嫌らしい。

 俺は目の前の無言の仲間割れを楽しみながら、結論を待つ。俺自身の『今日は楽しいことが起こりますように』は、今叶えられているのかもしれない。



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