≪777000≫ Zer0×Nin9→21

gaction9969

【777000】

――説明しようッ!! 「Zer0ゼロ×Nin9ナイン21にじゅういち」とはッ!! 通常のサイコロとは異なる、「0から9」までの目がある「出目合計21」のサイコロを転がし、「10」あるお互いの「ライフ」を削り合って、先に「0」に至らせた方が勝つというッ!! 運否天賦に見せかけた、極めて奥の深い決闘遊戯なのであるッ!!――


「よお、お互いのまずは勝利を祝って」


 いきなり声を掛けられた、ことについ反応してしまったのは、少しまだ興奮状態にあったから、だったのかも知れない。


 にやり笑いかけられつつ、スパークリングワインと思しき液体を湛えた細いグラスを差し出されつい受け取ってしまった。それに同じグラスを軽く合わせるように触れ合わされて、相手の挙動に合わせるがまま、グラスの中身を半分ほど干してしまう。気づけば喉というか歯茎くらいまで乾ききっていた。


「見てたよ、流石の『トリプルスリーフォー』。安定の、って感じだった」


 するりと会話を差し込んできたけれど、何だこのコミュ力は。泡食って何も返せない僕とは真反対に、その茶色の長髪男は張りのあるバリトンで続けてくる。


「そして正直に言ってしまうと、『交渉』をお願いしたい」


 言いつつにんまりと笑ってみせる。相手に見せるだけのための笑顔だろうが、整っていながらもどこか抜けた雰囲気を持つそれに一気に距離を詰められたように感じてしまう。いや落ち着け。周りを見回してみると、一見、豪奢なホテルのラウンジのような「場」のそこかしこでは、僕らと同じように話し込んでいる風の姿が見て取れた。もちろんここはそんな和やかなパーティー会場では断じてないのだが。


 いきなりワケの分からない鉄火場に放り込まれたことに気がついたのが今から二十分ほど前。そこから有無を言わさず意味不明の説明が為され、いきなり「サイコロ」を転がすだけの博打のようなものに強制参加させられた、のが五分ほど前。


 「最強のサイコロを決める実験」とか、主催者とのたまう輩はそんな風に述べていたが。怪しすぎる。何より、この場で目覚めたという事実もあるわけで。その直前の記憶がはっきりしてない。怪しい。けど騒ぎ立てることも憚られるのは、入口出口のみならず、この巨大なホールのそこかしこにこれでもかの頑強そうな「黒服」たちが直立不動のまま立ち塞がっているわけであり。


 そして呈された「現金」。の山。ひとり「1000万円」ずつ貸し与えられたそれを、奪い合うとのことだ。「一回の対局で、勝者は最大1000万を得ることができ、敗者は最大1000万の負債を課される」とか。割と尋常じゃあ無い。


 しかして今、僕の手元には700万の現金の束がある。蛍光カラフルなエコバックのような袋に無造作に入れられて。先ほどの「対局」とやらで「ライフ」を「七つ」残しで勝利を収めたからだ。たった四、五分のことで。


「『交渉』……っていうのは」


 思わずそう問うてしまったのは、やはりこの長髪男の雰囲気というか話術というかに依るものなのかも知れない。


「『ダイス』を交換してほしい」


 しかしてぽんと放たれたその言葉は、僕の予想を軽く上回っていたわけで。「交換」? そんなこと出来るものなのか?


「『是』とは告げられていないが、『非』とも言われてない。そしてこれは単なる運任せのゲームなんかじゃあ断じて無い」


 一瞬、その作り物めいた微笑の奥から素の顔が覗いたように感じた。何だ?


「『立ち回り』を要求されている。そしてそこに『作為』も加わっていると、推測する」


 どういうことだ?


「キミの持つ【444333】、一見盤石で隙の無い布陣に見えるが、大きな落とし穴がある。このまま次戦戦ったのなら、高い確率で敗北するだろう」


 待った。断言できるわけない。出目が操れるわけでも無いし、運否天賦のはずだ。


「次の相手の『賽』を見てくれ、【992200】……キミのと逆に随分と振り切った出目だろう……? けど【9】がふたつもあるということが問題なんだ。キミのは最大でも【4】しか出せない。相手が【9】を二回連続で出すことが出来たのなら、何をやってもキミは敗北する。せざるを得ない」


 確かに……いや、そう錯覚させられている? 分からなくなってきた。


「【9】の出る確率は『3分の1』。二回連続で出る確率は『9分の1』……『必敗確率:11%』……そしてキミが勝つには最少でも『三回』は振らなければならない。それも相手が二度【0】を出すと仮定しての話だ。キミの『必勝確率』は相手の半分の『5.5%』しかないことになる。よく考えてくれ、確率確率言っているかも知れないが、それは出目が対等の時だけだ。各々違うサイコロを振るんだから、平等なわけがない。それにどうしたって出目の偏りはある。何百回と振るわけじゃあないんだ。そりゃあ偏る」


 つらつらとした語りは、だが引き込まれてしまいそうだ。


「でも……交換? が成るとして、それで必勝となるわけでも……」


 と言いよどむばかりの僕の鼻先に突き付けられたのは、長髪男のサイコロ。


「【777000】。ラッキーセブンだ。こいつで【992200】に当たったと仮定すると、二回勝負で『必勝:11%』の『必敗:2.7%』。こんなに違うんだ。それに気づかない奴が必然負けていく、これはそういう戦いだ」


 そうなのだろうか。そんな気もしてきた。ひとまず僕の方に損は無さそうだ……よし。


 承諾し、お互いのサイコロを交換し合う。うん、第二局、これでいける……


 待てよ?


 実際にサイコロを振る場に立たされて思った。結局確率はやっぱり確率なんじゃあないか? それにさっきの話、いいことだけの「一面」を見せられただけのようにも思える。現にこちらが【7】を連続で出せなきゃあ意味がないじゃないか。


 一気に血の気が引いてきた顔面を強張らせながら、震える手から零れ落ちるようにして振られたサイコロが、僕を嘲笑うかのように【0】の面を上に向ける。


《GAME END》

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