熱々おでん777

羊蔵

熱々おでん777


 メルカリで呪いの猿の手を買った。

 毎朝七時に自分へ使用するためだ。あえてね。

 人生において、まったく不幸に遭わずに生きるのは不可能だ。

 ならば、一日の不幸を一カ所にまとめれば良い。

 予測不可能な不幸を前倒しで、予測可能な不幸にするのだ。

 そのために俺は完璧なシステムを構築した。


 まず玩具のスロットを用意する。

 スロットの下には天秤が設置してある。

 777が揃うと、メダルが百枚落ちて、天秤を傾ける。

 降りてきた天秤によってドミノが倒される。

 ドミノが進んで振り子やらボーリング玉を起動させる。

 結果、何やかんやで俺に熱々のおでんがぶっかかるという仕組みだ。


 要は777が揃うことである。

 毎朝、俺は猿の手でスロットを押す。

 手は呪いの道具なので、俺を不幸にするよう確率へ働きかける。

 つまり777を揃えて俺へ熱々おでんをぶっかける。

 これで禊ぎ終了。

 その日一日、もう不幸は起こらない。


 この仕掛けを作ってから俺は無敵だ。

 ミスが減り遅刻もなくなり、自信がついたせいか営業成績もアップ。女子社員からもモテはじめ、先日などはプレゼントを贈られた。

 すべては呪いの猿の手のおかげです。呪い最高。


 などといって、今朝、スロットを押した時のこと。

 ドミノが倒れていく間に、俺は鞄の中から袋を発見した。

 女子社員に貰ったプレゼントだ。開けてみて絶叫した。

 『幸運の招き猫キーホルダー』だった。

 こんなものを持っていたら『熱々おでん猿システム』にどんな影響を及ぼすか知れない。

 俺は窓が割れるのも構わず、全力投球で投棄した。

 素速い判断が功を奏して、熱々のおでんは無事、俺の顔面にヒットした。


 それにしても危なかった。

 俺は電話で直接文句をいってから、招き猫女のアドレスを消去する。

 いったいどういうつもりだクソ野郎。

 ともかくこれで平穏が守られ、俺の絶頂期は続くわけである。


 『熱々おでん猿システム』。あなたもいかがだろうか。

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