第40話 新人女優のKさん
「えっと?」
今の現状。女の子が俺の上にもたれかかっている状態。←どういうこと???
どうやら状況を察するに、女の子がぶつかってきた拍子に俺は倒れてしまったようだ。そのせいもあって女の子が俺の上にもたれかかっているのだろう。この状況、なんとかしないと。
「あの」
「うぅ」
「だ、大丈夫ですか」
「ん?」
女の子が不意に顔を上げる。
そこに居たのはとても可愛らしい女の子だった。目はパッチリしてるし、顔立ちもかなり整っている。長い紫色がかった髪を上の方で二つ縛りにし、サイドテールにしている。
「?」
ふと懐かしさを覚えた。なんでか分からないけど。まぁ、気のせいだろう。
あまり見過ぎるのもよくないと思い目を逸らす。
「んー? んー」
しかし女の子は俺にもたれかかったまま、なぜか俺のことを凝視していた。ま、まさか真上だってバレたか? ばっちりサングラスしてるのにな。
ヒヤヒヤしていた俺だったけど、
「きゃあ!」
女の子が声を上げたことで一変した。
「す、すみません! 私、ぶつかっちゃうなんて!!」
「あはは、それよりも……」
「すみません! すみません! お怪我はないですか?」
「(びっくりしたーー!)」
いきなり女の子が謝ってくるもんだから、俺は内心驚いていた。推測するに、女の子はようやく自分の状況を把握したようだった。
「えっと大丈夫だから。それよりも、立ってくれると」
「えっ? きゃー! す、すみません!! 私ってばぶつかるだけじゃなくて、もたれかかっていたなんて!!」
あわあわと女の子は口を動かしながら慌てて俺の上からどいた。女の子は軽いし別に怪我はないんだけど、さすがに事務所前で騒いだら怒られそうだからな。
現に通りゆく人たちが俺と女の子を何事かと見ていた。
「すみません! すみません!」
「大丈夫だから気にしないで。それより、時間大丈夫? なんか急いでいたみたいだけど」
「はっ!? マズイ、マネージャーさんに呼ばれてたんだった」
「なら、早く言った方がいいんじゃない。俺のことは気にしなくていいからさ」
「うっありがとうございます! あのっこれっ」
すると女の子は勢いよくバックからメモを取り出すと、何かを書き始めた。そして書き終わると俺に持っていたメモを渡した。
「こ、今度お詫びをするので電話してください!」
「いや、別に」
「それじゃあ!!」
「あっちょっと!」
俺はメモを返そうとしたがその前に女の子は柊事務所の中に走り去ってしまった。手元には女の子の携帯電話の番号がかかれたメモだけが残った。
「(ものすごく、慌しい女の子だったな)」
もちろんというか女の子には電話する気はない。別に怪我もしていないし、大丈夫だと思ったからだ。
「(初めて見る顔だったな。新人さんかな? 同じ事務所みたいだけど、まぁ事務所は広いし会うこともないだろう)」
俺は持っていたメモをバックの中に押し込むと、女の子が走り去っていった事務所の中へと入る。
そしてエレベーターでそのまま社長室へと向かった。社長室はビルのてっぺんにあり、都会の街を見下ろすことができる場所にあった。
エレベーターを降り、社長室と書かれた扉をノックする。すると、がちゃりと扉が開いた。そこに居たのは黒と白を基調としたスタンダードなメイド服に身をつつんだメイドさんだった。
そして部屋の奥には、社長の椅子に座った柊社長が……
「琴美さん、何してるんですか?」
「なにって、父から任されて社長の仕事を代わりにしてるだけだが?」
「えー」
ではなく。そこに居たのは、社長の娘の柊 琴美さんだった。(第29話に登場)
「えーとはなんだ。私はね、社長から頼まれてここにいるんだ。つまり、社長代理という訳だ(ドヤッ)」
「いや、ドヤ顔で言われても」
たしかに柊社長は忙しい人なので、こうして琴美さんが社長の手助けをすることは珍しくはない。というかこの人、現役女子高生にして社長の手伝いをするなんて凄すぎないか?
「(まっ本人には言わないけど)あの、社長から俺への伝言とかなかったですか? 社長に呼ばれたんですが」
「あぁ、あったぞ。お前にしか頼めないと父は言っていたよ」
俺にしか頼めない? 一体どういうことだろうか?
不思議に思っていると、琴美さんが「呼んでくれ」と扉の近くに居たメイドさんに言った。メイドさんはお辞儀をし、扉から出ていく。それから数分後、メイドさんは誰かを連れて戻ってきた。
「あっ」
「紹介しよう、弘人。この子は君と同じドラマに出ることになった乙坂 花鈴(おつさか かりん)くんだ」
俺は驚いた。だって、
「おっ乙坂花鈴です! よろしくお願いします!!」
そこに居たのはさっき入り口でぶつかってきた女の子だったからだ。
まさかこうも早く再会するなんて思わなかった。
女の子、いやっ乙坂さんはどうやら俺に気づいていないようだ。というか入ってきてから緊張した顔をしていて目線が合っていなかったから気づいていないのだろう。
「よろしくお願いします、えっとそのさっき会った真上太陽です」
「よ、よろしくお願い……えっ?」
「先程はどうも」
「あっあっ」
乙坂さんは俺をみて口をパクパクさせている。
「えっまさか、さっきぶつかったのは真上さんで、えっ?」
「なんだ、お前ら知り合いだったのか」
「いやー、実はさっき」
「事務所の先輩になんてことを……先程はすみませんでした!!」
◇
「……なるほどな、くくっまさか太陽にぶつかって倒すなんてな」
「うぅ、すみません」
「あはは、まぁびっくりしましたけど」
その後、乙坂さんに再び平謝りされ、琴美さんから理由を聞かれたため、理由を話したら笑われた。
「まぁ、失敗したと思うならそれを次回に生かせばいいさ。だから気にするな」
「あ、ありがとうございます。柊さん」
「さすが琴美さんですね」
「よせ、褒めるな。照れるじゃないか」
「そう言いつつ全然照れてませんけどね!」
琴美さんはツッコまれると、さらに楽しそうに笑った。まったくこの人わ。
「で、話がそれたけど、乙坂さんを紹介したのってワケがあるんですよね? 乙坂さん同じドラマに出るって言ってましたけど、前に聞いた時は草根さんが出る予定じゃなかったですか?」
すると琴美さんは苦虫を噛み締めた顔をした。
「あぁ、それがな……実は草根さんは俳優仲間と不倫したみたいで近々スキャンダルが出るんだよ。あっこれは内密にな」
「えっ」
「で、事務所で本人と話し合った結果、本人の意向で当分自粛することになったんだ。だから、草根さんの代役として乙坂くんは急遽ドラマに出ることになったんだ」
「……なるほど」
「ということで、乙坂くんは明日の撮影が初めてだから、先輩としてよろしく頼む。というのが父の伝言だ」
なるほど、だから社長は俺を呼んだのか。現場で乙坂さんを見て欲しいから。
「分かりました。やれることはやります」
「頼んだぞ」
「よ、よろしくお願いします!」
ということで、俺は乙坂さんの面倒を見ることが決まった。まぁ、先輩としてやれることはやるさ。
「じゃあよろしくな太陽。明日の集合時間とかもろもろは君のマネージャーの海原くんから連絡がいくからな」
「はい、じゃあ俺はこれで失礼しますね」
「なんだ、もう帰るのか」
「いや、明日から栄監督にお世話になるので予習しておこうと思って」
「相変わらず努力家だな」
「あはは、そんなことないですよ。あいつの方が頑張ってますから」
「あいつ?」
「……何でもないです。それじゃあ、失礼しました」
「あぁ、気をつけて帰れよ」
琴美さんに軽く会釈をすると、俺は最後に乙坂さんの方を向いた。
「乙坂さん、また明日ね」
「は、はい!」
それだけ伝えると、俺は社長室から出たのだった。
◇
「乙坂くんも、あとで海原さんに明日のことを聞いてくれ」
「……」
「乙坂くん?」
「は、はい!?」
「やれやれ、なんかボーっとしていたみたいだけどどうしたんだ?」
「いえっ、ただ」
「ただ?」
「……いえっなんでもありません。わかりました! 後で海原さんに話を聞いておきます。それでわ!」
「あぁ、気をつけてな」
ペコペコとお辞儀をしながら出ていく乙坂に、琴美は軽く手を振り見送った。そして、乙坂が部屋から出ると、くくっと声に出して笑う。
「やれやれ、どうやら乙坂くんは《《アイツ》》にお熱のようだな」
「お嬢様?」
それがどういう意味を持つのか。それは琴美にしか分からないことだった。
表では清純派アイドル、俺の前では生意気な義妹に×××する話 天春 咲良(あまはる さくら) @amaharu01
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